>> #NoMoreFake 第7回「そこに仕組みがあるから」
次の日、朝からSNSは#NO MORE FAKEのタグがトレンド入りしていた。
畠山さんの戦略は有効だった。
まず、大手スポンサーになってくれたスポーツメーカーから、金銭目的のフェイクニュース関連のサイトを撲滅する意向を示したWeb広告を発信させた。
そのWeb動画はスタイリッシュなもので、若者を中心に拡散され、限定のプレゼント企画もあったことから午前中にはフォロワーが 7 万人を超えていた。
「すごいですね、畠山さん」
昼休憩に、おふくろさん食堂に行くと、客足は変わらず空いていた。
広い席でパソコンを広げ、二人でカツ丼を食べる。
ママのカツ丼は故郷の鹿児島から取り寄せた、なんとも絶妙な脂がのった黒豚で気合を入れたいときはいつも頼む。
相変わらず、ほっとする味で畠山さんとの会話にも熱がはいる。。
「もうフォロワー 7 万人はいきそうですよ」
「まだまだこれからだけどね。今はただ宣伝として拡散させてるだけだから今からおふくろさん食堂の件をどれくらい拡散できるかだから、今からが勝負だよ」
「本当に地道な作業ですね」
「これでも早い方だよ。情報操作を主にやってる業者は何年も前からいろいろ仕込んでるんだ。本当に気づかないうちに使ってるスタンプだったり、拡散されてるおもしろ動画の中にも、意識操作するコンテンツが混じってる。ギャグに合わせて人を批判したりとかね。気づかないうちに面白いってフォローしてるアカウントから偏った情報が提供される。長時間かけて意識を変えていくにはSNSはもってこいのツールでもあるんだよ」
「なんか怖いですね」
「その意識の変化が原因で世界で起こる出来事も変わっていくからね、この先何十年を考えれば 4 、5 年の準備期間なんてあっという間なんだろうね」
「その目的って何なんですかね…」
「結局、どんなに技術が革新されても、使う人間が良い方向に変わっていかないと意味がない」
二人で話し込みながらおふくろさん食堂を出ると、入り口の前でママが掃除をしていた。
「…え?これ、何ですか?」
おふくろさん食堂の入り口には、スプレーで「ウィルス除去」と書かれていた。
「…ひどい」
「ママ、これは警察に届けた方がいいよ。立派な犯罪だ」
「そうね…」
報道後、匿名で嫌がらせの電話を受けたり、フェイクニュースの影響か最近さらにひどくなったらしい。フェイクニュースを書いている人は今頃悠々と高級ランチでも食べてるんだろう。昨日のニュースを思い出し怒りがこみあげてくる。畠山さんと警察の対応をしているママは少し痩せているように見えた。
「いつもありがとうね」
警察に連絡し話をした後、仕事に戻る私たちに杏仁豆腐をお土産にサービスしてくれるママ。
「やっぱりまだお客さん少ないの?」
畠山さんが尋ねると、ママは少し困ったように笑う。
「売り上げも半分以下になっちゃってね。ちょっとお店お休みしようかなって迷ってるとこなのよ。私もそろそろいい年だし、ちょっと疲れちゃったから」
80 歳まではやりたいとキラキラしていたママは少し寂しそうに笑いながらお釣りを渡す。
小さな飲食店は、1 、2 か月通常通りの運営ができないだけで経営はすぐ傾いてしまうらしい。家賃や光熱費、在庫処分…お客さんあっての商売だから客足が減るのは大打撃だ。
売り上げも半分以下になってしまったそうでアルバイトの数も一週間前より減らしたそうだ。
フェイクニュースで一人の人生を変えることは容易にできる。
だからこそ、その対策は必要なんだと思う。
今回の一件でフェイクニュースの影響で、大企業さえも危機に面するらしいが、その痛手を受けるのは結局リストラされる社員だ。
「早く何とかしてあげたいね」
「はい」
仕事が終わり、今後の方針について話し合うことになり、畠山さんの仮事務所に向かった。
事務所はSOHOの一室で質素だがきれいなマンションだった。
普段は、畠山さんの友人が協力してフェイクニュースの調査や監視を行っているそうで、部屋にはデスクやパソコンが何台か並んでいた。
おふくろさん食堂関連の記事を見ていると、兄が遅れてやってきたらしく玄関のチャイムが鳴る。
玄関に現れた兄の後ろにはスーツ姿の女性が立っていた。
後ろ髪をキュッと結び、いかにもキャリアウーマンというようなぴったりしたパンツスーツが似合う女性は、兄と一緒にFAKExのサイトを運営している記者の三木さとみさんだという。兄とは大学の同級生で、大学でも兄とフェイクニュースの研究サークルをやっていたそうだ。
>> #NoMoreFake 第9回「フェイクニュースパイプライン」
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