公文書管理法の成立は、日本の文書管理、アーカイブズの歴史の中でも画期的な出来事となると評価されていますが、同時にセキュアで保証された文書管理システムの構築も求められます。
本稿では、法律の概要と、総務省を中心として開発中の文書管理システム化について、2回にわたって概要を報告します。
1.公文書管理法
公文書管理法は、公文書に関して現用文書の管理と歴史的な文書の永久保存であるアーカイブズ(非現用文書)が一元化されておらず、また文書のライフサイクル管理の整備が不十分であったとの問題意識から内閣府、総務省を中心に検討が進められていました。こうした公文書管理制度改革の動きは2003年から始まっており、2008年に「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」が設置され、「時を貫く記録としての公文書管理の在り方 ~今、国家事業として取り組む~」という最終報告が出されています。2009年に公文書管理法案が本報告を基に通常国会に提出されました。
2.日本の文書管理、アーカイブズの問題点
(1)文書の管理が一元化されていない
現状では、現用文書の管理とアーカイブズ(非現用文書)が一元化されていません。文書のライフサイクル管理は、現用文書において「作成」から始まり、「活用」「保管」「保存」を経て、最終的には「処分」されます。この後に歴史的な文書の永久保存というアーカイブズの段階があり、これが非現用文書の世界です。公文書は現在、現用文書については総務省、非現用文書は国立公文書館で内閣府と、所管が各々別になっています。このため、国立公文書館が保管する歴史的公文書に関して、各省庁からの移管が組織的に円滑にいかないという問題がありました。
日本では、国や地域の歴史的公文書を残すというアーカイブズの意義が十分に認識されていないのが実情です。このため、日本の歴史研究家にとっては、日本では資料が揃わないので米国国立公文書館(NARA)に行かないと研究できない、ということが常識になっているくらいです。なお、米国の国立公文書館が2,000人以上の職員を抱えているそうですが、日本は僅かに50人弱だそうです。今後、文書管理の専門家育成なども急務となることでしょう。
(2)文書管理の目的が明確でない
文書管理の目的は、説明責任を果たすためのものです。日本では、情報公開法が施行されて以来、国民に開かれた行政の実現を図るために、説明責任が重要な法律となっています。文書の記録と管理に関わる国際標準であるISO15489 にも、その目的は説明責任を果たすためとしています。ところが、現実には情報公開を請求しても文書不存在になるという問題が少なからず起きているようです。「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」(2001年4月1日施行)及び「独立行政法人の保有する情報の公開に関する法律」(2002年10月1日施行)は、国民に対し政府の説明責任を全うする観点から、行政機関及び独立行政法人等(すべての独立行政法人及び政府の一部を構成するとみられる特殊法人・認可法人)が保有する文書についての開示請求権等を定めています。
(3)文書管理の専門職の職能が確立されていない
現用文書管理のための専門職がレコードマネジャーであり、アーカイブズのための専門職がアーキビスト(保存価値のある情報を収集、整理、保存、管理、閲覧できるようにする専門職)です。数は少ないがアーキビストは活躍してきているのに対し、日本ではレコードマネジャーがほとんどいないに等しく、外資系企業に若干名いる程度です。
図1 現在の文書管理の仕組み
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出典:現在の文書管理の仕組み
3.公文書管理法の位置づけ
今回成立した公文書管理法は、現用文書の「管理」と使用を終了した非現用文書の「管理」と「公開」に関する法律です<図2>。また、政府は、本法の施行に当たって、付帯決議として次の諸点について適切な措置を講ずべきであるとしています<*3>。
以下には主要な付帯決議を挙げました。
・行政文書の管理が適正に行われることを確保するため、一定の期間が経過した行政文書に関しその保存期間満了前に一括して保管等の管理を行う制度(いわゆる中間書庫の制度)を各行政機関に導入することについて検討を行うこと。
・特定歴史公文書等の適切なデジタルアーカイブ化を推進し、一般の利用を推進すること。
図2 公文書管理法の位置づけ
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公文書管理法 法案
http://www.cao.go.jp/houan/171/
公文書管理の在り方等に関する有識者会議
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/koubun/
公文書等の管理に関する法律案に対する附帯決議
http://www.shugiin.go.jp/itdb_rchome.nsf/html/rchome/Futai/naikaku5901E9FCB66666D4492575D20007B8D1.htm
セキュリティ対策コラム
http://www.nttdata-sec.co.jp/article/
(林 誠一郎)