海外における個人情報流出事件とその対応 第213回 国家で重要性を増すサイバー戦 (1)サイバー戦争チームを支えるイスラエルの民間企業 | ScanNetSecurity
2024.04.20(土)

海外における個人情報流出事件とその対応 第213回 国家で重要性を増すサイバー戦 (1)サイバー戦争チームを支えるイスラエルの民間企業

 サイバー戦で優位に立つためにイスラエルは民間の技術を用いていると、イスラエル軍諜報部(Israeli Military Intelligence Directorate)のAmos Yadlin少将が指針演説で述べたと、12月15日『ロイター』が伝えている。イスラエル軍諜報部、通称アマンは、国防省の管轄に

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 サイバー戦で優位に立つためにイスラエルは民間の技術を用いていると、イスラエル軍諜報部(Israeli Military Intelligence Directorate)のAmos Yadlin少将が指針演説で述べたと、12月15日『ロイター』が伝えている。イスラエル軍諜報部、通称アマンは、国防省の管轄にある国家的な諜報組織で、Yadlin少将はその頂点に立つ人物だ。

 指針演説は、テルアビブ大学のシンクタンク、Institute for National Security Studiesに対して行われた。コンピュータネットワークを諜報活動に用いて、データベースにハッキングして、重要な管理システムに「悪意あるソフト」を仕掛けて、破壊工作を行う準備を進めているようだ。少将はイスラエルからサイバー攻撃を開始することができると語っている。

 さらに、「完全に青と白(イスラエルの国旗は青と白で構成)の計画だ」と、イスラエル独自の計画であることを強調。外国の援助や技術に依存していないとした。従来型の破壊工作に経験豊富なイスラエルの諜報機関だが、サイバー戦争部隊も既にアマンの中で重要な位置を占めている。

 サイバー戦争チームを支えるのが、世界のハイテク産業をリードするイスラエルの民間企業で、情報通信、ITソフト、エレクトロニクスなどの分野で優れた能力を持っている。これらの企業のスタッフは、イスラエル軍におけるコンピュータ部隊のエリートであったケースが多い。サイバー戦は防衛政策の一部としてイスラエルで重視されていることをYadlin少将は明らかにしている。

 また、米国、英国はサイバー戦争部隊を結成していることに触れる一方で、イスラエルでは、サイバー戦場だけを対象としている“兵士と将校”がいることを明らかにした。ただし、イスラエルの攻撃対象は具体的には挙げていない。

 Yadlin少将は「変化が急速に続く中で、この戦場(サイバー戦場)におけるリードを保つことが特に重要だ」という姿勢を表明した。そして、「サイバー空間は小さい国や個人に、従来は大国の領域であった力を与える」と、イスラエルとしての国家安全保障上でのサイバー戦の位置づけを説明した。イスラエルの諜報活動の全体に責任を持つYadlin少将が公の場でサイバー戦争について語ったのは、今回が初めてだと、軍のスポークスパーソンは明らかにしている。

 演説では、ハッキングに対して脆弱性のある国家的な脅威についても語っている。少将が挙げたのは、イランの核プロジェクトや、国境近くにいるシリアとイスラムゲリラ組織だ。

 イランに対しては、核開発を行っている、もしくは計画しているのではないかという疑惑があり、国際社会からも中止が求められている。国連安保理からもウラン濃縮関連や再処理活動の停止要求が行われているが、イランは交渉に応じていない。イランの核施設は、イスラエルからミサイル爆撃を行うには距離があるが、サイバー部隊なら有効な攻撃が可能だ。

 Technolytics Instituteによる、サイバー戦争の脅威に関する2008年ランキングでは、中国、ロシア、イラン、フランス、過激派/テロリストに続いて、イスラエルは第6位に挙げられている。Technolytics Instituteは米国の民間コンサルタント企業で、エグゼクティブのためのシンクタンクだ。

●中東で繰り広げられたサイバー戦

 Yadlin少将が優位とするサイバー戦略については、中東ではサイバー戦がこれまでにも繰り広げられてきた。7月に『Newsweek』で、“Fight Wire with Wire”というMohamed Herzallahの記事が掲載された。Wire(ワイヤー)、つまり通信には通信で戦うというタイトルだ。記事ではイランとその同盟国によるサイバー攻撃が、イスラエルのネットワークを脅かしているとしている。

 イスラエルは2008年12月27日に、イスラム原理主義組織ハマスが支配する、パレスチナ自治区ガザに激しい空爆を行った。AFP通信はその際、205人以上が死亡、300人以上が負傷と伝えた。

 この数字はイスラエルの攻撃による一日の犠牲者の数としては、1980年代の第一次インティファーダ以降最多とされる激しいものだった。これを受けて、まずはガザの武装勢力がロケット弾を撃ち込んで報復した。

 Herzallahでは、続けて2009年1月に反イスラエル勢力が高度なサイバー攻撃を行ったことに触れている。年明け早々、イスラエルの報道機関や政府関連のサイトに大量のe-mailを送信するDoS攻撃を仕掛けて、これらのサイトがダウンしてしまったというものだ。

 記事によると、ピーク時には50万台のコンピュータから毎秒1,500万通ものe-mailが送られている。また、中東関連のニュースを伝えるメディアは、攻撃元はモロッコ、レバノン、トルコ、イランなどだったとしている。

 その他、モロッコのイスラム教徒のグループは…

【執筆:バンクーバー新報 西川桂子】
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