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2017.10.24(火)

第27回「ソフトウェア契約に潜むリスクとその法的対策」平成19年4月経産省発表「情報システム・モデル取引・契約書」(13)ソフトウェア開発委託契約の成否をめぐる判例

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●36.東京地裁平成18年2月10日判決(続き)
  (平成16年(ワ)第14468号損害賠償等請求事件)

 前回に続き、東京地裁平成18年2月10日判決をご説明致します。

 原告の請求に対する裁判所の判断は次のとおりです。

「ア 以上の事実によれば、本件システムのプロジェクト立上げ当初、原告と被告の担当者レベルでは、プロジェクトが順調に展開された場合、被告が本件システムの営業・販売を担当し、原告は、本件システム端末の調達を行い、利益を上乗せしてこれを被告に販売するとともに、本件システムのリモート保守を受託するという取引に発展することがプロジェクトの方向性として想定されていたことが認められる。また、その後も、その時々の状況に応じて軌道修正しながらも、原告・被告の各担当者は上記の方向性に基づいてプロジェクトを進捗・展開させたことが認められ、本件使用許諾契約及び本件保守契約はその一環として位置づけられるということができる。」

 すなわち、当初は、本件事業スキームが契約当事者間では存在しており、その一環として、本件使用許諾契約及び本件保守契約が位置づけられる。

「イ しかしながら、本件事業スキームの合意が成立したことを示す覚書等の文書は存在しないし、また、被告の担当者であったDは被告を代表する権限を有しなかったところ、本件事業スキームを合意するについての被告社内の決裁手続が行われたとの事情も認められない。さらに、その後の本件使用許諾契約及び本件保守契約の締結に至る経緯、とりわけ、本件保守契約の締結に至るまでは、原告が被告に対し、飽くまで要望として本件システムの運用・保守業務を受託することを提案していたこと、(中略)原告と被告は、保守契約の締結に向けて交渉を継続し、長期間での契約を望む原告の要望にもかかわらず、契約期間を1年とし、期間満了の1か月前までに終了の意思表示があれば更新されないことを内容とする本件保守契約を締結したことにかんがみると、本件事業スキームの合意の存在を認めることはできないといわなければならない。」

 ここでは、事業契約スキームが法的拘束力を持つ合意として、認定できるかどうかが述べられております。保守契約の期間を1年間としていることなどから、「運用・保守機能に関わる開発費、システムの基本設計費等を、リモートによる運用・保守業務を原告が担当することにより将来の段階の収益で回収すること」との合意の成立まで認められないとしています。

「ウ したがって、被告が本件保守契約を破棄して原告の開発費等の回収を妨害したことが本件事業スキームの合意違反の債務不履行又は不法行為であることを理由とする原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。」と、判断しました。

 原告は、原告のノウハウを侵害したことを理由に損害賠償をしました。ノウハウ侵害に関する判断は次のとおりです。

 「原告の主張する本件ノウハウは、その内容自体具体的なものではない。しかも、原告被告間の業務委託基本契約書によれば、本件ノウハウに対する権利が被告に移転していると解する余地がある。仮に上記基本契約書の条項が適用されないとしても、本件ノウハウは、本件システム設計等請負契約に従いその成果物が被告に引き渡されることに伴って被告に開示され、本件システムの運用に際し被告によって使用されることが予定されているものである。(中略) よって、本件ノウハウの侵害について不法行為又は債務不履行(本件事業スキームの合意違反)をいう原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。」

 この点の判示は明快であり、ノウハウとして権利主張するには、ノウハウを特定することが先決問題です。

 次に、原告は、被告が原告ライブラリを使用していることの差し止めを求めました。これに関する裁判所の判断は次のとおりです。

 「マンション等で使用される端末等への原告ライブラリのインストールは、本件使用許諾契約による許諾に基づくものである。

 原告が目論見として有していた本件事業スキームないしこれに類する事業計画は、本件使用許諾契約締結の動機として位置付けられるものであるところ、原告が本件使用許諾契約の締結に際し、このような目論見を意思表示の内容として被告に表示したことを認めるに足りる証拠はない。よって、本件使用許諾契約の錯誤無効をいう原告の主張は、理由がない。(中略)本件使用許諾契約の締結に当たって被告が詐欺の意図を有していたことも、欺罔行為を行ったことも認められず、本件使用許諾契約の詐欺取消しをいう原告の主張は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。」

 すなわち、原告は原告のソフトウェアについては、被告に対して使用許諾したものであり、著作権侵害にはならないとの判断です。本件事業スキームの一環である「本件使用許諾契約」によって、原告は被告から許諾を得たということになります。

 さらに、原告は、本件システムに搭載した原告ライブラリを、被告ライブラリに取り替えて実装した点について、原告の著作権を侵害したと主張しました。この点に関する裁判所の判断は、次のとおりです。

 「被告は、被告ライブラリの開発に当たり、本件アプリケーションの解析を通じて原告ライブラリに求められる機能、すなわちライブラリを構成すべき関数や両プログラムのインターフェース条件を明らかにすることができることを利用して、本件アプリケーションを解析することによって本件アプリケーションを機能させるために被告ライブラリに実装されるべき必要な関数の特定を行ったものであり、原告ライブラリそのものの解析を行ったものではない。

 関数の実装についても、被告ライブラリを構成する65個の関数のうち、39個の関数は、既存の公開されている関数をそのまま又は一部修正して採用したものである。[2]-4及び[2]-5の関数は、特定された関数の処理内容の推測及び実装の段階で、原告ライブラリにテストプログラムをリンクさせているが、インプットとアウトプットとからブラックボックス(原告ライブラリの関数)での処理内容を推測したにすぎず、原告ライブラリのソースコード又はオブジェクトコード自体を知り得たものではない。」 これらの点にかんがみると、被告ライブラリが原著作物である原告ライブラリの創作的な表現を再生していると認めることはできないし、また、被告ライブラリの開発行為が原告ライブラリに依拠して行われたものと認めることもできない。」

 「これに対し、原告は、…

【執筆:弁護士・弁理士 日野修男】( nobuo.hino@nifty.com )
日野法律特許事務所 ( http://hino.moon.ne.jp/ )
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