RFIDをめぐる各国の法整備とわが国の課題(1) | ScanNetSecurity
2024.03.29(金)

RFIDをめぐる各国の法整備とわが国の課題(1)

1 はじめに

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1 はじめに

 Radiofrequency Identification (REID)を利用した電子技術の応用が盛んに行われている。わが国でも日立のμチップをはじめとする応用製品が実用化され2005年に開催予定の「愛・地球博」の入場券などで利用される予定となっているなど、日常生活の中でもRFIDの利用が活発化しつつある。


●RFIDタグとプライバシー侵害の懸念

 REIDは、当初、軍事目的で開発されたものであるが、その後の電子技術や微細加工技術の発展に伴い、流通管理や在庫管理などのために、民生品としての小さな電子タグとしての利用が活発になった。ところが、RFIDタグは、非常に小さな電子製品であるにもかかわらず、小型のコンピュータとしての演算機能、記憶機能、入出力機能、通信機能を具備していることから、RFIDタグの中に記録される個人データに関連するプライバシー問題の発生が懸念されている。とりわけ、消費者や顧客などには知られないように実行される「ひそかになされる利用(stealth deployment)」については、欧州の個人データ保護指令が求める個人データ収集に際しての「事前の同意(consent)」の要件との適合性がない場合があるとの疑問が示されている。このことは、日本国における個人情報保護法や米国におけるプライバシー保護判例という文脈の中でも全く同じ法的課題を提供しているということができるだろう。

●この連載について

 この連載では、RFIDに関して問題となる法律問題について、主としてプライバシー問題や個人情報保護の問題を中心としながらも、それ以外の重要な法的問題にも触れながら、法的問題点の所在を理解するための基本的事項を提供し、それに対する各国政府及び民間団体等の取り組みの概要を紹介する。ただし、この連載は、技術的事項の詳細を紹介することを目的とするものではない。
 この連載では、おおむね、次のような項目を順番に解説する予定である(順不同)。

(連載予定項目)
・RFIDとプライバシー及び個人情報の保護
・日本国の電子タグの利用に関するガイドライン
・EPCガイドライン
・RFIDと関連する個人情報保護に関する世界各国の関連法制
・RFIDタグの環境問題、リサイクルなど
・RFIDと関連する電波規制
・RFIDの欠陥に起因する製造物責任
・RFIDの知的財産権保護


2 法的問題のとらえ方

 一般に、RFIDの法律問題は非常に特殊なものだという考え方が一部にある。他方で、RFIDに関しては特別法などが存在しない以上何でも自由にできるという誤解も存在している。これらは事実である。しかし、いずれの見解も間違っていることは、法律家であれば誰でも知っている。

●個人情報漏洩の場合には民法が適用される

 例えば、RFIDタグ及びこれを利用したトレースシステムの設計、実装または運用上のミスにより、個人情報の漏洩や不正利用などが発生した場合、被害を受けた個人情報の本人は、民法第709条(不法行為)の規定により、当該システムの設計者、開発者または運用者に対して損害賠償責任を追及することができるし、もしそのようなミスが製造物の欠陥に該当する場合には、製造物責任法も適用されることになる。このような場合、RFIDを応用したシステムに起因する損害賠償責任に関する特別法の存在は全く必要ではなく、通常の事実認定と民法その他の法律の法解釈に基づいて法的責任の有無が決定されるのである。

(つづく)

【参考文献】
* アレックス・アラン(夏井高人訳)「RFIDとプライバシー問題」情報ネットワーク・ローレビュー第3巻139頁(2004)
* 夏井高人「トレーサビリティシステムと個人情報保護法上の問題点」情報ネットワーク・ローレビュー第3巻113頁(2004)
* 藤村明子・鈴木幸太郎・木下真吾・森田光「REIDプライバシー保護の実現に関する法制度及び技術的提案」情報ネットワーク・ローレビュー第3巻33頁


【執筆:明治大学法学部教授・弁護士 夏井高人】

(この記事には続きがあります。続きはScan本誌をご覧ください)
http://www.ns-research.jp/cgi-bin/ct/p.cgi?m-sc_netsec
《ScanNetSecurity》

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