東アジア最大規模のサイバーセキュリティと物理セキュリティの融合展示会「SECON & eGISEC 2026」を取材した。ScanNetSecurity としては昨年 2025 年の同イベントも現地で取材している。
昨年、会場を巡っていて足を止めたのが、韓国のフラッグシップセキュリティ企業とも言うべき AhnLab のブースだった。ちょうど設立 30 周年をキーワードに掲げた華やかな展示が行われており、さっそく取材を申し込んだ。
日本から取材に来たメディアであることを伝え「ちょっとお話をお聞きしたいのですが」と若い男性にお願いすると、やがて厳しい表情をした上司風の女性が現れ、若い男性と 1 ~ 2 分ほどの会話があった。いい予感を持てない空気である。そして、返ってきた答えは「事前に書面で申請し審査を経ない限り、取材には応じられない」という、これ以上ないほど明確な取材拒否だった。
正直に言って大変驚いた。こちらはアポなしで会社の事務所の受付に押しかけて「社長に会わせろ」などという無礼を働いたわけでは全くない。主催元に正式にプレス申請を行い、審査を経てプレスバッジを取得して会場に入っている。プレスバッジとはすなわち「会場内のブースをじゃんじゃん取材してください」という主催者からのお墨付きである。それを持っているにもかかわらず、ブースで個別に取材拒否をされるなどということは想像すらしていなかった。ちなみに国内外で約 20 年、セキュリティの展示会等の取材を行っているがまったくのはじめての経験である。これが本誌ではなく ITmedia や日経新聞であれば態度は変わったのだろうか、そんな妄想も一瞬頭をよぎった。あるいはこれほどまでに韓国と日本の関係は悪いのか。結講異例なことだったらしい、SECON & eGISEC 2026 の運営事務局から連絡があって何かいろいろ言っていたが要は事務局にとってもある程度意外な対応だったようだ。
しかし、取材を拒否されたこと自体は、むしろ本誌にとって幸運である。福本伸行的に言えば「僥倖」。なぜなら、自ら積極的に取材されたがっている対象よりも、取材されたくない、あるいは取材を拒む対象を追いかけた記事の方が、読者にとってはるかに面白い記事になるからだ。考えてもみてほしい。本人が大歓迎で取材に協力した松本人志のインタビュー記事と、取材協力をほとんど得られなかったにもかかわらず情報を集めた松本人志に関する記事、この二つがあったとして一般の読者が読みたいのはどちらだろうか。ほとんどの場合後者だろうと思う。
そこで本年は戦略を変えた。事前に正式な取材企画書を作成し、取材の趣旨、想定する質問項目等をまとめた書面を AhnLab に提出して、あらためて取材を申し込んだ。結果、ようやくインタビューにこぎつけることができた。
取材当日。てっきり、政治ドキュメンタリーの取材で知られるプチ鹿島が国会議員の選挙事務所を訪れた際に応対に出てくるような、スーツを着て高圧的な態度で恫喝(どうかつ)を行うレスラー体型の中年男性が現れるのではないかと漠然と身構えていた。しかし実際に取材対応者として現れたのは、むしろ線の細い、繊細ささえ感じさせる青年、AhnLab, Inc. Communication Team Communication Division Manager のイム・ソンジン( Im Sunjin )氏だった(写真)。
事前に提出した企画書に記載した質問項目は以下の通り。
・ AhnLab の沿革と、現在の製品・サービスポートフォリオ
・ Palo Alto Networks や CrowdStrike といったグローバルベンダーには真似できない AhnLab 独自の強み
・南北の朝鮮の地政学的緊張を背景とした APT に関する知見について
・韓国政府機関等のビジネス環境に最適化された UI/UX
・KISA(韓国インターネット振興院)を軸とする緊密な官民連携
・「K-Security」ブランドとしての海外展開戦略
・優秀なセキュリティ人材の確保と社内育成の方法
さて、昨年取材を拒否した企業が、果たしてこれらの質問にどこまで踏み込んで答えてくれるのか。対応はソフトだが結局はのらりくらりと何も答えないのか、以下にインタビューの内容をお伝えする。
● AhnLab の沿革と製品・サービスポートフォリオ
AhnLab は 1995 年、韓国ソウルに設立された。創業から 30 年を超える IT セキュリティ専業の老舗企業だ。
出発点はアンチウイルスだった。そこからエンドポイントセキュリティ(EDR / XDR)、ネットワークセキュリティ(ファイアウォール、IPS)、マネージドセキュリティサービス(MSS)、クラウドサービスへと領域を拡大し、現在はこれらを統合した「ユニファイドセキュリティプラットフォーム」を提供している。
