2021年SFプロトタイピングの旅 第4回「SFの醍醐味=最悪の事態」 | ScanNetSecurity
2024.04.19(金)

2021年SFプロトタイピングの旅 第4回「SFの醍醐味=最悪の事態」

 1968年に作家のクラークが発表した小説「2001年宇宙の旅」と、同年公開されたキューブリック監督による映画化作品の成功は、その後の人類の宇宙開発に少なからぬ影響を与えました。

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2021年SFプロトタイピングの旅 第4回「SFの醍醐味=最悪の事態」

 1968年に作家のクラークが発表した小説「2001年宇宙の旅」と、同年公開されたキューブリック監督による映画化作品の成功は、その後の人類の宇宙開発に少なからぬ影響を与えました。

 空想科学小説(SF)という文学ジャンルの持つ力を借りて、新しい価値観や目標、今までになかった製品やサービスを考える手法は「SFプロトタイピング」と呼ばれており、Intel社の研究機関の未来学者によって提唱され、近年日本でも注目が集まっています。

 SFプロトタイピングは、飛躍や自由な発想が積極的に許容され、その点が、既知のデータをもとにしたシミュレーションや未来予測とは異なっています。

 未知の要素を最大限考慮に入れながら将来やってくる未来を思い描く。これを「将来やってくる未来」ではなく「将来やってくる脅威」に置き換えれば、それはセキュリティ担当者なら多かれ少なかれみんながやっていることではないのか。

 そんな認識のもとで、2021年夏、1名の作家を含む識者3名が集まり、サイバーセキュリティ領域でのSFプロトタイピングの利活用の可能性について考える勉強会を開催しました。3名の講演とディスカッションで構成され、ディスカッションのテーマに設定したのは、サイバー攻撃の非対称性を無効化する兵器を構想すること。

 登壇したのは、著書「SFプロトタイピング: SFからイノベーションを生み出す新戦略」を早川書房から出版(共著)したばかりの、筑波大学の大澤 博隆 先生、そして、SFプロトタイピングを活用した企業コンサルティングの実績を持つアノン株式会社の森 竜太郎 社長。そして、サイバーミステリー作家の一田 和樹 氏の3名です。(註:所属及肩書は当時)

 昨2021年をはるかに超えて不確定要素が増す現在、3名の講演とそれに続くディスカッションを、勉強会の講演再録として連載でお届けします。第4回からアノン株式会社の森 竜太郎 社長のパートがはじまります。

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 はじめまして。アノン株式会社 代表取締役の森 竜太郎です。アノン株式会社は「サイエンスフィクションの社会実証」ということをミッションに掲げています。2014年に創業した比較的新しい会社になります。

 私自身は現在までに空飛ぶ車であったり、ライドシェア、スマートグラス、人工培養肉といったSFの世界の産物を事業として実現するプロジェクトに多く関わってきました。

 アノンではこの経験を活かして、SFプロトタイピングという手法を軸にした戦略コンサルティング事業及びビジョン開発事業を展開しております。

 本日は私の経験に基づきながら、SFプロトタイピングが注目された背景、手法、実例などを通じて、想像力を活用して先を読む時代を生き抜くためのノウハウを紹介させていただきます。

 一部大澤先生と被っていたり、今日のユーザーの皆様もどちらかと言うとSF側に興味があって、ビジネス側には興味がないかも、という不安もあります。ただ少しでも皆さんの参考になる情報をご提供できればと思います。お付き合いいただければ幸いです。よろしくお願いいたします。

 今、大澤先生からだいぶご説明がありましたが、そもそもSFプロトタイピングというのは、「サイエンスフィクションの執筆と発想を用いて、想像力を拡張することで、尖った大胆なアイデアを思考する」手法になります。

 いま世界では、このSFプロトタイピングや、SFそのものに大きな注目・投資が集まっている現状がある。例えばアメリカの先進企業であったり、政府機関――海軍ですね――であったりが、積極的にSFプロトタイピングを導入している。中国では国家的にSFに投資することによって、事業や研究開発を刺激する。こういった現象が世界で起きています。

 なぜこれほどまでにSF、そしてSFプロトタイピングに注目が集まっているのか。その大きな背景として、今、世の中に大きく普及している製品であったり、投資が活発になされている事業の多くであったりが、SFにインスパイアされて誕生している、ということが挙げられます。

 例えばアメリカのSFのシンボル的存在であるスタートレックなんかは、今から50年以上も前に携帯電話の誕生を予見していた。こういった事が一つ大きな背景として挙げられます。

 そしてSF映画や、SF作品を象徴するのが、最悪の事態に関する描写であると考えています。疫病の蔓延から、ロボットの暴走、エイリアンの襲来に至るまで、多くのSF映画というものは一見馬鹿げたように思える未来や危機を描いて、それに対して最新技術や人類の英知を用いて対抗する。そういったことを描くのがSFの醍醐味の一つである。この最悪の事態という発想を持つことがどれだけ重要かを、今回のコロナが明らかにした、と言っても過言ではないかなと考えています。


《ScanNetSecurity》

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