Scan Legacy 第一部 1998-2006 第7回「事件は作るもの、海外提携こぼれ話」 | ScanNetSecurity[国内最大級のサイバーセキュリティ専門ポータルサイト]
2017.10.24(火)

Scan Legacy 第一部 1998-2006 第7回「事件は作るもの、海外提携こぼれ話」

特集 コラム

本連載は、昨年10月に創刊15周年を迎えたScanNetSecurityの創刊から現在までをふりかえり、当誌がこれまで築いた価値、遺産を再検証する連載企画です。1998年の創刊からライブドア事件までを描く第一部と、ライブドアから売却された後から現在までを描く第二部のふたつのパートに分かれ、第一部は創刊編集長 原 隆志 氏への取材に基づいて作家の一田和樹氏が、第二部は現在までの経緯を知る、現 ScanNetSecurity 発行人 高橋が執筆します。

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(Scan Legacy第一部は、サイバーミステリ作家 一田 和樹 氏が、Scan事業を立ち上げた株式会社バガボンド 代表取締役 原 隆志 氏(当時)に取材した内容をもとにとりまとめた、事実をもとにした一田和樹氏によるフィクションです)

「事件は作るもの」というのは、Scan創刊以来の柱のひとつだった。誤解があるといけないので、少し解説しよう。なにもないところで、問題を見つけて公表すれば、それは事件になる。例えば、談合を現場を極秘取材して暴くのは事件を作ることになる。なぜなら、なにもしなければ、誰もそこに問題を見つけなかったからだ。じゃあ、ほとんどの記事は事件を作っていると言えるんじゃないかと思うかもしれない。実は事件を作っていない記事の方がはるかに多い。

警察や官公庁、企業の発表をそのまま記事にするか、取材して少し掘り下げて記事にするのだ。製品レビューもその延長線上にある。こう考えると、ほとんどの記事は、事件を作っていないものになってしまう。とはいえ、事件を作るのは独自の取材などいろいろやらなければいけないことが多い。お仕着せの発表資料をもらって記事にするのより、かなり面倒だ。しかも瑕疵があった時は、全責任を負うことになる。決して楽なことではない。サイバーセキュリティという分野に限って言えば、コードを読めなければいけない(イコール書けるということになる)。コードを読めなければ記事の検証すらできない。そもそもクローラー回して、脆弱性を見つけることもままならないだろう。

この方針のおかげで、第5回第6回で紹介したようなさまざまな事件を作ることが出来た。

もうひとつの重要な柱は海外提携だ。私が運用していた時のScanは、イギリスの The Register とイスラエルの SecuriTeam と提携し、その記事を翻訳して掲載していた。というとなんだかたいそうなことのように聞こえるが、実はそんなでもなかった。2社とも海外、それも日本に記事を売るなんて考えたこともなかったのだろう。ほとんどこちらの言い値で契約することができた。具体的な金額は控えるが、日本語の記事をライターさんに書いてもらうよりはるかに安かった。もっともそこにさらに翻訳料がかかるのだが、それでも安い。2社とも破格の低価格だ。

イスラエルの SecuriTeam とは、時々メールを交換し、新しく見つけた脆弱性について話し合った。一度もリアルで会うことはなかったが、気のいい連中で楽しかった。

海外提携に関しては秘話がある。当時世界最大としてはサイバーセキュリティの商業誌がイギリスにあった。私は何度かメールで提携交渉を行った後で、契約を結ぶべくイギリスへ発った。同行したのは編集部からひとりと、コーディネーター。現地で同時通訳者と合流した。

ロンドンのピカデリーサーカス近くの、由緒あると言えばきこえがいいが、古くて高いホテルに宿泊した。

初日の夜は当時話題だった店に出かけたが、ありえないくらいのまずさに閉口した。私はパスタを頼んだのだが、解凍方法を間違えた冷凍食品でも、ここまでぐたぐたにはならないだろうという食感と明らかにおかしい味付け。パスタというか、食べ物の概念が違う国なのだなと実感した。

2日目は丸一日かけて提携交渉を行った。双方の詳細な媒体データと記事の内容を確認し合い、どのような提携可能性があるかを話し合った。正直言うと、記事をもらって翻訳だけできればよかったのだが、思いのほか相手が乗り気だったのでこちらも一歩踏み込んだ形での交渉になった。

しかし、双方に新しいビジネスチャンスを生み出すような提携内容はなかなか具体化しなかった。時間も限られていたので、双方持ち帰って続きはオンラインで行うことになった。

交渉の後、連れだってクリントン大統領も訪れたというテムズ川に浮かぶ船のレストランに出かけた。目の玉が飛び出すほど高いのではないかと恐れたが、そうでもないと言うのでいぶかしがりつつもついて行った。

洗練された店内に、映画に出てくるような物腰の店員達。これまでロンドンでは、ろくなものを食べられなかったが、今度こそ美味しいに違いないと期待した。出てきた料理を一口食べて、思わず同行した三人同士で互いの顔を見合わせた。なぜなら、これまで食べたもののなかで一番不味かったからだ。これを本当にクリントン大統領も食べたのか? 目の前の交渉相手は、うまいうまいと食べている。イギリス人もアメリカ人も味音痴としか思えない。私が食べた料理は、明らかに塩を入れ忘れた味だった。それを称してアヴァンギャルドというなら、そんなものはいらない。

釈然としないまま日本に帰り1カ月経った頃、くだんの会社が買収されたと連絡してきた。日程から考えて、会った時にはすでにかなり買収交渉が進んでいたはずだ。だったら、提携交渉なんかするなよと思ったが、全ては後の祭り。みやげ話にすらならない失敗談である。

(原 隆志 / 取材・文:一田 和樹)
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