本連載は、昨年10月に創刊15周年を迎えたScanNetSecurityの創刊から現在までをふりかえり、当誌がこれまで築いた価値、遺産を再検証する連載企画です。1998年の創刊からライブドア事件までを描く第一部と、ライブドアから売却された後から現在までを描く第二部のふたつのパートに分かれ、第一部は創刊編集長 原 隆志 氏への取材に基づいて作家の一田和樹氏が、第二部は現在までの経緯を知る、現 ScanNetSecurity 発行人 高橋が執筆します。--(Scan Legacy第一部は、サイバーミステリ作家 一田 和樹 氏が、Scan事業を立ち上げた株式会社バガボンド 代表取締役 原 隆志 氏(当時)に取材した内容をもとにとりまとめた、事実をもとにした一田和樹氏によるフィクションです)サイバーセキュリティ専門メールマガジン Scan を私が創刊したのは、1998年10月8日のことだった。メールマガジン配信スタンドまぐまぐなどを利用して配信する無料版と、有料版の二種類。有料版はニフティだけでの配信となった。当時は、メールマガジンを課金する仕組みがほとんどなかったのだ。BIGLOBEももうひとつの選択肢ではあったのだが、日本電気は「官僚より官僚的」と社員自身が認めているように、とろいので遅れてのスタートとなった。10月いっぱいはお試しで無料配信期間にした。週1回配信で月額820円。ちょっと高めの設定だったが、販売開始数時間で千人を突破、1週間で三千人を突破した。当時としてはかなりの快挙だ。おかげで法人の一括購読の問い合せや、広告の問い合せが相次いだ。当面の目標は千部だったから二十四時間以内に目標を達成したことになる。その時思ったのは「だから言ったじゃん」。なぜなら、当時の社員、ニフティの担当者、執筆者などほとんどの関係者が売れないだろうと予想していたからだ。今と違ってサイバーセキュリティが話題に上ることなどほとんどなかった時代の話である。無料ならともかく、有料というのはありえないと思ったのだろう。自分で言うのもなんだが、内容はたいしたことがない。「自分で情報収集するのが面倒」という関係者の代わりに情報収集と整理をしてあげていたくらいの記事だった。媒体としてもっとも重要なポイントは、ふたつ。・知らなかったではすまない人物に、知らなかったではすまない情報を提供する・一カ月に1回(あるいは一年に1回でもいい)、読者にとって役に立つ記事が掲載できればいい(読者それぞれに有用な記事は異なるが)。この条件を満たす有料媒体を毎週発行するために必要な労力は、アルバイトひとりに、私が情報収集方法を指示し、最低限抑えておくべき情報を与えれば可能だった。なので、三千部も売れればもとがとれる。しかし、それだけでは先がないので、広告収入を得なければならない。今後サイバーセキュリティは社会の重要な基盤になることがわかっている以上、専任の人間をおける規模まで拡大しておく必要があった。ベンチャーキャピタリストなどは思い切って投資しろとか言うのだが、当たるも八卦当たらぬも八卦で、投資ポートフォリオの中で当たりを出せばいい彼らと違って、私はちゃんと会社を育てたかった。年商一億円以上十億円以内で確実に利益の出る会社がそこそこ忙しくて楽しい。この規模だと設備投資や人材への前倒しの投資を前提にした商売はできない。というか、先行投資やむやみな規模拡大は、ひたすら自分と周りを忙しくするだけのような気がしていたし、その忙しさの内容も株や投資や人事など本来やりたい仕事ではなくなってくる。それが好きで楽しい人もいるのだろうけど、私はそうではなかった。なので新規に人を雇うことなどはせずに、自分で広告営業に動いた。といっても社長自ら数万円のメール広告を手売りしていたのでは効率が悪くてしょうがない。そこでスポンサードを商品の中心にした。媒体にスポンサードしていただき、その代わりに毎号クレジットを表記し、一定量のメール広告を提供するというものである。契約単位は半年で、契約時に一括で半年分を支払っていただく。小さな会社ではキャッシュフローの管理が重要だ。その意味では半年分を先にもらえるのは大きい。営業というとあまり楽しくないように思う人も多いが、その時は楽しかった。なぜならサイバーセキュリティ業界におけるこの手の媒体の必要性を感じたRSA社の方やトレンドマイクロの方が後押しして、次々とクライアント候補の会社を紹介してくださったからだ。お目にかかる方々は全部社長なので、よくも悪くも話が早い。みなさん、それぞれ特長と個性があっておもしろい人ばかりだった。創刊時からRSAセキュリティとトレンドマイクロの2社を中心とするスポンサーがついた。当時のRSAセキュリティ社長がScanという媒体に理解を示してくださって、サイバーセキュリティ各社を紹介してくださったのも大きかった。(原 隆志 / 取材・文:一田 和樹)