Scan Legacy 第一部 1998-2006 第2回「落日」 | ScanNetSecurity[国内最大級のサイバーセキュリティ専門ポータルサイト]
2017.11.21(火)

Scan Legacy 第一部 1998-2006 第2回「落日」

特集 コラム

本連載は、昨年10月に創刊15周年を迎えたScanNetSecurityの創刊から現在までをふりかえり、当誌がこれまで築いた価値、遺産を再検証する連載企画です。1998年の創刊からライブドア事件までを描く第一部と、ライブドアから売却された後から現在までを描く第二部のふたつのパートに分かれ、第一部は創刊編集長 原 隆志 氏への取材に基づいて作家の一田和樹氏が、第二部は現在までの経緯を知る、現 ScanNetSecurity 発行人 高橋が執筆します。

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(Scan Legacy第一部は、サイバーミステリ作家 一田 和樹 氏が、Scan事業を立ち上げた株式会社バガボンド 代表取締役 原 隆志 氏(当時)に取材した内容をもとにとりまとめた、事実をもとにした一田和樹氏によるフィクションです)

接待に行かなければならないと噛みつく営業マン、子供の誕生日だからと懇願する社員、泣き出す女性社員……社内のあちこちに配置された検察の人たちは、ていねいに申し訳なさそうに応対した。だが、もちろん答えはNO。電話もかけられない。外にも出られない。電話を受けることもできない。妙な緊張感と、焦りにも似た感覚がオフィスに張り詰める。

「なんで、誰も電話にでないんだよ」

そして外から戻って来た営業マンらしき社員は、私と同様社内に入ってから異変に気づいて後悔する。一度オフィスに入ったら、もう出られない。


結局、その日は夜の一〇時過ぎまで残された。一〇時を過ぎた頃、一般社員と関連会社の人間は帰っていいことになった。私は、関連会社の社長だったからそのタイミングで解放された。帰れないかもしれないと思っていたので、助かったと思った。

ぞろぞろとみんなでオフィスから出ると、エレベータの手前で数名の検察が持ち物検査をしていた。パソコンなどを持ち帰ってはいけないという。女性の持ち物検査は女性の検察官が行っていたが、それでもカバンを開かれて泣く女性社員もいた。

ビルのエントランスを出ると、報道陣がうろうろしていた。ライブドア社員を見つけて取材しようというのだ。

ビルを出て、ひんやりした空気の中を歩き出すと、誰かがつぶやいた。

「これからどうなっちゃうのかなあ」

ぼんやりした不安を抱えて、社員たちは帰路を急いだ。


翌日、出社すると堀江さんが社員を集めて、「みんな、がんばろう」と檄を飛ばして拳を突き上げてみせた。ふだん見たことのないパフォーマンスだ。珍しいものを見たと思ったが、もちろん一緒に拳を突き上げたりはしなかった。この後、どうなるかはわかっている。過去に強制捜査を受けた会社に起きたのと同じことが起きると思った方がいい。無実が証明されて誰も罪を問われることがないなんてことはありえない。強制捜査をやった以上は、必ず誰かがが有罪になる。だが、ライブドアの社員たちは声を合わせて拳を突き出した。

その後の幹部会議で、堀江さんは自分の後任に弥生会計の平松さんを指名した。平松さんは当時グループに加わったばかりだ。経験豊富とはいえ、新参者。私は意外に感じると同時に堀江さんらしいとも思った。

「これからどうなるんでしょうね」

その日の午後、社員に訊かれた。

「幹部は逮捕でしょ。それから政治家に手を伸ばそうとして失敗」

私は強制捜査を行う以上は、政治家狙いなんだろうと想像した。でも、ライブドアは政治家がらみの問題はないはずだ。だから、あてがはずれるはず。でも強制捜査をやった以上は、とりあえずライブドアの幹部を逮捕して有罪にしなければ収まらない。


翌週、堀江さんを始めとする幹部が逮捕された。全員知った顔というか、一時期は毎週会議で顔を合わせていた連中だ。率直に当時の気持ちを語ると、ラッキー! だ。私は当時退任することを考えていたが、その最大の障害は堀江さんと宮内さんの反対だった。ライブドアグループで数少ない黒字会社の社長をほいほいと手放すほど、あのふたりはお人好しじゃない。そのふたりが逮捕されていなくなった。そしてNS総研のネットセキュリティ情報事業にとって、このスキャンダルは致命的だ。グループを離脱しつつ、引き受け企業から社長を派遣してもらうというアクロバットを仕掛けようと思い立った。千載一遇の機会とは、まさにこのことだ。ライブドアには貸しはあっても借りはない。社員と事業にことを考えれば、グループ離脱がベストだ。顧客も大事だが、顧客にはいくらでも他の選択肢がある。社員の選択肢は、限られている。これで逮捕された連中が有罪になれば、さらに選択肢は狭まるだろう。やるしかない。

もちろんなんの勝算もなく、そんなことを考えたわけではない。逮捕の翌日に電話がかかっててきたのである。かけてきたのは、以前この会社の売却を打診した某社のM&A担当者。だからライブドアでなくうちに売ってくれればよかったんですよ、という嫌味でも言われるのかと思ったが、そうではなかった。

「こんな時に、なんですが、うちへの売却を再度ご検討いただけますか? このままライブドアグループにいても事業がつぶれるだけでしょう」

瀕死のライブドアから黒字事業をもぎとっていく…ハイエナとはこのことだと思ったが、こちらとしては渡りに船だ。

「…ありがたいお申し出ですが、その判断は私でなくライブドア本社のファイナンス担当が行うことになると思います」

「その方をご紹介ください。あとはこちらで進めます」

その会社だけではなかった。次々と売却打診の電話がかかってきた。黒字事業はやっておくものである。私が自分で考えていた以上に、ネットセキュリティ情報事業への関心を持つ会社は多かった。少しでもよい企業に引き受けてもらいたいと思って、私も心当たりの会社に声をかけてみた。結果として、商社系、サイバーセキュリティ会社、コンテンツ会社、そのほかネット関連企業が関心ありと回答してきた。

いちばんの障害はライブドアの説得だったが、このままでは事業はつぶれるだけなので、ライブドアにとっても売却した方がメリットが大きい、と平松さんとファイナンス担当を説得し、同意にこぎつけた。

売却に当たって、私の退任が前提というのはネックになったが、それでも引き受けてくれる企業が複数あった。コンペのような形になり、最終的には上場企業のサイボウズ社が落札した。異業種のサイボウズ社が積極的だったのには、いささか驚いた。

結果としてNS総研はライブドアグループを最初に離脱した子会社となった。本社は売却益を得たはずなので、「ボーナスください」と申し出たのだが、「うちは売りたくないんです。原さんが売ってほしいというから仕方なく対応したんです」とうまく丸め込まれて1円ももらえなかった。ライブドアは、どこまでいってもケチで理不尽だ。

ケチといえば利益を出していない事業部の責任者が私よりもたくさん給料もらっているなど解せないことが多かったし、残業代も踏み倒された。残業代踏み倒してると労働基準監督署に密告されますよ、と平松さんにはアドバイスしたが見事にスルーされた。コンプライアンスを重視すると言って、残業代を踏み倒す(もちろん違法行為)のはいかがなものかと思ったが、それ以上追求はしなかった。二枚舌で違法行為に手を染めている人間を相手にしても時間の無駄だ。私は正義の味方じゃない。

一年後ライブドアを退職した某社員(もちろん私ではない)に本気で労基署に行くぞ! と脅されて全ライブドア社員の残業代を過去にさかのぼって支払うハメになった(らしい)。噂なので真偽のほどは明らかではない。

(原 隆志 / 取材・文:一田 和樹)
《原 隆志 / 取材・文:一田 和樹》

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