工藤伸治のセキュリティ事件簿 第20回 | ScanNetSecurity
2024.04.25(木)

工藤伸治のセキュリティ事件簿 第20回

※本稿はフィクションです。実在の団体・事件とは関係がありません※

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※本稿はフィクションです。実在の団体・事件とは関係がありません※

「なんでクスリなんかするのかなー?」

オレは葛城の下手な芝居に噴き出しそうになった。

「クスリは簡単に手に入るんだよ。クラブとか、ライブハウスで、素人が売人をやってたりする。錠剤とか、チョコとか、金魚の形の醤油入れとか、クスリとは思えないような形で売ってるんだ。最初はタダでくれたりするしね。クスリとは知らずにやって、ずるずると抜けられなくなるっていうよくあるパターンなんだろうなあ」

葛城は思ったよりショックを受けたようだった。こいつは古いヤツだな、とオレは思った。若い連中は、自分でやるかどうかは別としてクスリが手軽に手にはいることを知っている。だから、知り合いがやっていても、そんなに驚いたりしない。おっかないヤクザとつきあいがないと、クスリが手に入らなかったのは遠い昔の話だ。

「あんたも家のローンがあるよな。悪いけど調べたよ。だってあんたも容疑者だからさ」

オレが葛城に言うと、露骨にいやな顔をした。

「それに消費者金融から金を借りてるだろ。なんでサラ金なんかで借りるんだよ。嫁さんに内緒だろ。こんなの調べればすぐにわかっちゃうんだ。隠し通せるもんじゃないよ。転職する時、身体検査ではねられちゃうよ」

オレが、転職、と口にした時、葛城の顔色が変わった。もしかしたら、思い当たることがあったのかもしれない。これ以上言って泣き出されたらいやだ。

「まあ、いいや。まずメシだ」

オレたちはしばらく無言で弁当を食った。すっかり重い雰囲気になってしまった。でも、オレ、もうひとつ言っておかなきゃいけないことがあるんだよな。こんな雰囲気で言うのいやだが、しかたがない。

「あのさ、オレ、ブログやってるんだけどね」

葛城は、ゾンビみたいな顔色だ。ブログがどうした、みたいな目でこちらを見た。

「こういう仕事してると、いろんなヤツがオレの名前をネットで検索して調べようとするじゃん。オレに関心を持ってるヤツが、わざわざオレのサイトに来るなんてある意味チャンスだろ? その中に犯人がいる可能性も高い。だから、自分の名前を出してブログやってんだ。もちろん仕事の内容なんかは書いてないよ。ただね、ちょっと仕掛けがあるんだよね。スパイウェアを仕込んであるんだ。特注品だから、アンチウイルスソフトとかには引っかからない。見ただけで感染するってヤツだ」

スパイウェアを仕込まれると、パソコンに保存してある大事な情報からパソコンの操作の記録も盗まれるし、パソコンを遠隔操作されてしまうこともある。世の中のほとんどのセキュリティソフトは、すでに一般に出回っているウイルスやスパイウェアのパターンをチェックして防御する。逆に言うと、一般に出回っていない特注品のスパイウェアを防ぐことはとても難しいわけだ。

「なにを言ってるんですか?」

葛城の顔色が一層ひどくなった。スパイウェアを仕込まれる怖さはわかっているらしい。

「オレのブログに来たヤツのパソコンの中身はオレに筒抜けなんだよ。ここのシステム部の連中の何人かは、オレのブログを見に来てたね。おかげで、脅迫に使ったファイルを持ってるヤツも特定できた。さっきの証拠で特定した犯人と同じだった。ただ、このことは言えないけどね。勝手に他人のパソコンにソフト仕込むのは犯罪だからね」

葛城の目が点になった。オレの顔を凝視している。脅かしすぎたかもしれない。

「心配しないでいいよ。あんたのパソコンの中身については、誰にも言わないからさ。あんたもオレのブログのことは内緒にしておいてくれ」

オレがそう言っても葛城の顔色は一向によくはならなかった。

「あのさ、あんた、インターネットエクスプローラ使ってるだろ。FireFoxに変えた方がいいよ。FireFoxの方がスパイウェア埋め込まれないような設定にしやすいしさ。ノースクリプトっていうプラグイン入れておけば…」

オレはフォローのつもりでアドバイスしてやったが、葛城は上の空だった。転職サイトや出会い系サイトを使ってるのが、ばれたのがショックなんだろう。

ひどく気まずい沈黙が流れた。しかしこのままずっと葛城とだんまりしているわけにもいかない。

「じゃあ、犯人にご登場いただこう」

オレは、わざとらしく明るい声で言った。

【註解】
パソコンの中の情報を知らない間に盗まれることなんか、あくまでもフィクションだと思っていないだろうか。スパイウェアは、普通に広がっていて、いつ誰のパソコンから情報が盗まれても不思議ではないのだ。最近では、手が込んでいて、「ウイルスに感染しています」などとウソのアラートを出してヤバイソフトをダウンロードさせるものもある。なにしろわが国有数のブログサービスとセキュリティ企業が共同で行ったキャンペーンでトロイの木馬を配布する時代なのだ。なにが起きても不思議ではない。

Norton Police City in Ameba キャンペーン ブログパーツ改ざんに関する対処方法のご案内
http://ameblo.jp/team-norton/


【執筆:才式】

関連リンク
さりとてあるまじろ
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工藤伸治のセキュリティ事件簿 第1回〜第19回
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