工藤伸治のセキュリティ事件簿 第18回 | ScanNetSecurity
2024.04.27(土)

工藤伸治のセキュリティ事件簿 第18回

 ※本稿はフィクションです。実在の団体・事件とは関係がありません※

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 ※本稿はフィクションです。実在の団体・事件とは関係がありません※

「どうやって調べるんですか?」

葛城が聞いた。

「企業秘密。でもヒントをやろう。借金の情報、まあ、個人信用情報って呼ぶんだけどさ。銀行系の全国銀行個人信用情報センター、クレジットカード系のシー・アイ・シー、その他もろもろの日本信用情報機構の三つがあって、ローンや借金の返済状況なんかがわかるようになってる(註)。これを見てクレジットカードやローンの審査をやってるわけだ。本人も自分の情報がどうなってるか確認できるから、葛城さんも自分のを見てみれば? どこの会社が自分の情報を見たかもチェックできるようになってるからさ」

葛城に向かってオレは言った。

「え? じゃあ、我々が調べたことが、本人にわかってしまうんじゃないですか?」

「ところが、わからない方法があるんだよ。記録に残らないんだ」

「どういうことですか?」

「さあね。世の中、どこにでも穴があるってことさ」

などとわかった風なことを言ってみたが、オレも興信所から情報を買っているにすぎない。腕のいい興信所はこの手のデータを簡単に集めてくれる。

「怖いよな。どこでいくら借りてるか全部わかっちゃうんだぜ。ヤクザやクスリ関係も、ちゃーんと調べる方法があるんだよ。間に合えば明日持ってくる」

葛城は不安そうな顔でオレを見ていた。


翌日、早朝からオレは会議室に詰めていた。机に置いたノートパソコンには、昨夜設置したカメラの画像が映り、音声が流れている。昨日、興信所に調査を依頼した後で、すぐにシステム部に数台のビデオカメラを設置したのだ。オレの横では、葛城が真面目な顔をしてじっと座っている。男二人でずっとこんなことしてるのはやだな。早く動きがないかな。

ここの始業は十時だが、早い社員は八時から来ていた。現在は九時三十分。そろそろ普通の社員も出社してくる時間だ。

「おはようございます」

和田が部屋に入ってきた。数人の社員も一緒だ。同じ電車だったんだろう。すでに席に座っていた遠山が不思議そうな顔で和田を見る。

「あら? 和田さん、さっきいなかったっけ?」

「私、今来ました」

和田は無表情でそう言うと席に腰掛けた。それから自分の机の上のノートパソコンを不思議そうにながめる。他の社員は自分のパソコンを起動しているのに、和田はパソコンに触れようともしなかった。

「あれー? さっきいたような気がしたんだけどなあ」

遠山はつぶやきながら、タイムカードの方に歩いて行った。

「やっぱり、出社してるじゃない」

タイムカードをチェックした遠山は、わざと周りに聞こえるような声で言った。他の社員が訝しげな視線を遠山と和田に向けた。和田は無言のままだ。微妙な空気が部屋に流れる。

「おはようございます」

そこにさらに数名の社員が入ってきて、その話はうやむやのまま中断された。

オレは葛城に目配せした。出番だ。葛城は無言でうなずくと会議室を出て行った。

すぐにモニターに葛城が現れた。

「和田さん、そのパソコン持って、ちょっと来てくれる?」

葛城は部屋に入ると和田を部屋の外に呼び出した。そして適当な用事を言いつけて、システム部の外で作業するようにしてもらった。


【註解】
日本では、個人信用情報は、大きく三つの機関に集約されている。銀行系の全国銀行個人信用情報センター、クレジットカード系のシー・アイ・シー、その他もろもろの日本信用情報機構である。金融機関が、クレジットカードやローンの審査の際に、これらに問い合わせて申込者のローンや借金の返済状況などを確認するために利用されている。登録されている本人も自分の情報の内容を確認することもできる。それだけでなく、自分の情報を誰が閲覧したかという記録も残っている。規約通りに運用されていれば、身元の確認できる相応の理由のある人間以外は、ここの情報を見ることができないし、見れば誰が見たかという記録が残るわけである。

全国銀行個人信用情報センター(全国銀行協会)
http://www.zenginkyo.or.jp/pcic/
シー・アイ・シー(全国の主要クレジット会社など39社が株主)
http://www.cic.co.jp/
日本信用情報機構(消費者金融など)
http://www.jicc.co.jp/


【執筆:才式】
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