第28回「ソフトウェア契約に潜むリスクとその法的対策」 平成19年4月経産省発表「情報システム・モデル取引・契約書」(14) ソフトウェア開発委託契約の成否をめぐる判例 | ScanNetSecurity
2024.04.25(木)

第28回「ソフトウェア契約に潜むリスクとその法的対策」 平成19年4月経産省発表「情報システム・モデル取引・契約書」(14) ソフトウェア開発委託契約の成否をめぐる判例

37 東京地裁平成17年9月21日判決
(平成14年(ワ)第28830号・平成15年(ワ)第6577号)

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37 東京地裁平成17年9月21日判決
(平成14年(ワ)第28830号・平成15年(ワ)第6577号)

 原告は、リチャージャブルプリペイドカード等のシステムの開発及び運用を目的とする株式会社で、被告は、電気通信事業を主たる業務とする株式会社(エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社)です。

 本件は原告が主張する損害額3億1690万円のうち1億円の請求を求めた一部請求の事案ですが、システム開発委託契約の本体たる契約の成立に至らない場合であっても、従前の覚書等の締結、契約当事者の契約内容実現の事実的行為などから、「本件システムを採用する契約を締結する旨合意していたと認められる。」と判断し、請求額1億円の全額の請求を認容しました。

 本件訴訟では、以下の3つが争点になりました。

(1)平成13年7月5日に至るまでに、被告が本件システムを採用し本件カードサービスを開始する義務が発生していたか否か
(2)被告は、原告に対し、本件カードサービスの提供義務を履行したか否か
(3)損害額

 裁判所が認定した事実のうち、主なものは以下のとおりです。なお、判決文は長大なため、一部省略しています。

(1)原被告間の交渉の経緯と覚書の締結
 平成11年ころから、被告は、国際電話事業におけるプリペイドカードを用いたサービス事業を開始することを計画し、プリペイドカードシステムに関する検討を行っていた。

 平成12年2月24日、原告は、被告の立会いの下、パソコンベースの本件システムの実験を行った。その席上、システムが365日24時間安定稼働することが公共性の高いNTTがシステムを採用するための最低条件であり、システムをワークステーションを用いたものとすべきである旨を伝えた。

 被告は、平成12年3月14日、決裁担当の決裁を経た上で、原告との間で、同日、覚書を交わし、守秘義務のもとで両者において技術検討等を行うこととした。

(2)原告による本件システムの改良と販売の準備
 原告は、平成12年2月25日から、二重化のための作業を開始した。 

 平成12年10月26日、原告、被告及び関連会社は、本件システムに関して、技術上の問題を協議した。

 平成12年5月18日、被告(首都圏営業支店)と原告は、被告が提供する電気通信回線に接続する原告の電気通信端末機器及びそれに付帯する設備の保守を被告に委託するとの合意をした。

 平成13年5月15日、被告担当者は、原告担当者及び関連会社の担当者に対し、国際カードコールシステムのプログラムの受入検査について、その結果が合格である旨を電子メールで通知した。

(3)サービス開始の通知とその中止
 原告と被告は、平成13年6月21日、被告のプリペイドカード通話サービスに係るシステムと原告の本件システムとを接続するに当たり、接続形態等について定めた覚書を交わした。

 原告は、平成13年6月下旬ころ、本件カードサービスにおいて用いるリチャージャブルカードについて、株式会社エヌ・ティ・ティテレカ及び株式会社セーブオン、中部タイムズマート(いずれもコンビニエンスストア)との三者間で業務内容を定める契約書の送付を受け、代表者が記名押印して返送した。

 被告は、原告に対し、平成13年6月30日、本件カードサービスにおいて用いるプリペイドカード(リチャージャブルカード)及びパンフレットを発送した。

 被告担当者は、原告側担当者に対し、平成13年7月4日、電子メールにより、被告の営業担当からシステム開放を一旦中止にするようにとの指示が来ていることを理由として、同日のシステム開放作業に関しては一旦中止するよう通知した。

 被告は、本件システムを用いた国際電話プリペイドサービスのリチャージャブルカードを納入した先であるコンビニエンスストアに対し、平成13年7月4日付けで、同月5日に予定されていた販売開始を延期し、配送されたカードを回収する旨の文書を作成、通知した。

 上記の事実から裁判所は以下のとおり判断しました。
「ア 前記一(1)ないし(3)において認定したところを総合すると、原告と被告の担当部である国際電話サービス部においては、本件システムについて、技術的検討をして問題がなければ採用するという認識で覚書を締結したものであり、国際電話サービス部(長)が、本件システムを採用する契約を締結する権限はもとより、上記のような将来契約締結の義務を発生させる覚書の締結権限を有することについては、被告も特に争っていない。そして、覚書締結当時、被告の国際電話サービス部としては、原告が本件システムを同業他社へ持ち込まないよう規制をする必要があると認識し、基本的には本件システムを採用するという方針であったこと、原告のシステムが被告のそれと接続可能で、二重化の上、24時間365日安定稼働するシステムとなることが本件システムを採用するための条件であって、これを実現する必要があると原告に伝えたことが認められる。そうすると、本件覚書締結の際、原被告双方は、技術的検討を経て上記条件が満たされれば、本件システムを採用する契約を締結する旨合意していたと認められる。」

 すなわち、本件システムを採用する契約書自体は存在しないものの、「本件システムを採用する契約を締結する旨合意していたと認められる。」と判断したものです。

 原告は、損害額について、以下のとおり主張しました。
(1)本件システムの開発構築に基づく損害 2億1770万円
(2)平成13年7月4日に運用開始の中止が決定されたことに基づく損害 357万円
(3)端末機在庫 6447万円
(4)システム維持費用 3120万円
  合計 3億1690万円

 これに対し、裁判所は…

【執筆:弁護士・弁理士 日野修男】( nobuo.hino@nifty.com )
日野法律特許事務所 ( http://hino.moon.ne.jp/ )
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