Scan PREMIUM Monthly Executive Summary は、大企業やグローバル企業、金融、社会インフラ、中央官公庁、ITプラットフォーマなどの組織で、情報システム部門や CSIRT、SOC、経営企画部門などで現場の運用管理にたずさわる方々や、事業部長、執行役員、取締役、経営管理、セキュリティコンサルタントやリサーチャーに向けて毎月上旬に配信しています。
前月に起こったセキュリティ重要事象のふり返りを行う際の参考資料として活用いただくことを目的としており、分析を行うのは株式会社サイント代表取締役 兼 脅威分析統括責任者 岩井 博樹 氏です。Monthly Executive Summary の全文は昨日朝 6 時 1 分に配信した Scan PREMIUM 会員向けメールマガジンに掲載しています。
>>Scan PREMIUM Monthly Executive Summary 執筆者に聞く内容と執筆方針
>>岩井氏 インタビュー記事「軍隊のない国家ニッポンに立ち上げるサイバー脅威インテリジェンスサービス」
【1】前月総括
2026 年 9 月は、世界のニュースが各国のサイバー活動に直結することを印象付ける月でした。
外交・安全保障関連では、政府や政治家の発言を契機として、ハクティビストが即座に攻撃対象を設定し、攻撃を継続しています。一方、AI は情報収集や分析の補助にとどまらず、影響工作、監視活動、さらには兵器開発まで、従来は人間が担ってきた活動を高速化する基盤となりつつあります。
これに対し、日本、台湾、米国などでは、従来の予防・検知・対応に加え、潜伏する脅威を積極的に探索し、攻撃者の活動基盤にも働きかける取り組みが進んでいます。
攻撃者は政治的な出来事や技術的な弱点を素早く攻撃機会へと変え、防御側は被害が顕在化する前に脅威を発見し、対処しようとしています。サイバー空間では、攻防双方による「先手争い」が強まっています。
● 政治家の「発言」がサイバー攻撃の引き金になる
「日本はウクライナとともにあり、その方針は揺るがない」
高市首相は 9 月 22 日、ウクライナのゼレンスキー大統領との会談で、対ウクライナ支援と対ロシア制裁を継続する方針を改めて表明しました。外交・安全保障上のこうした意思表示は、サイバー空間とも無関係ではありません。
8 月には親ロシア派ハクティビスト NoName057(16) が、日本によるウクライナ支援や NATO との連携を理由として、DDoS キャンペーン「 #OpJapan 」を再開しました。同グループは 8 月 24 日に作戦再開を宣言し、日本の政府・自治体、運輸、物流などを標的としました。
9 月にも、Team1914 や Shadow Clawz 404 などの親ロシア派ハクティビストが、日本企業や監視カメラなどを標的とする攻撃を相次いで主張しました。これらのグループの Telegram チャンネルには、監視カメラなどの IoT 機器への侵入を主張する投稿や、その成果とする動画が公開されています。
一部の攻撃主張は首脳会談と同じ時期に確認されていますが、会談が直接の契機となったかどうかは明らかではありません。ただし、日本のウクライナ支援や NATO との連携は、以前から親ロシア派ハクティビストが対日攻撃を正当化する理由として掲げてきたものです。
現時点で、これらの攻撃主張に関連する大規模な事業停止や情報流出は確認されていません。しかし重要なのは、政府・政治家による外交上の意思表示が、時に特定国の脅威アクターにとってサイバー攻撃を正当化するためのトリガーイベントとして利用されている点です。
これまでも、ナショナルデーや歴史上の特定日に合わせ、反日活動に乗じたサイバー活動( DDoS、Webサイト改ざん、反日プロパガンダ拡散等)はたびたび報告されてきました。
今後は「特定の日」だけではありません。外交会談、制裁発表、軍事演習、他国への支援表明など、ニュースとして報じられる政治イベントについても、その直後にサイバー活動が活発化する可能性を想定する必要がありそうです。
● AI の悪用が情報活動や兵器開発にも拡大
AI を利用したサイバー活動について、興味深いレポートが Anthropic 社よりリリースされました。
同社の「 Detecting and countering misuse of AI: September 2026 」では、2025 年 12 月 ~ 2026 年 8 月に遮断した Claude の悪用を、サイバー攻撃、影響工作、監視、詐欺、生物学的悪用、通常兵器開発、モデル蒸留の 7 分野に整理して報告しています。
個人的に特に興味深かったのは、安全保障上の重要性が高い「 Surveillance operations(監視活動)」です。同章で示されているのは、AI が OSINT 分析だけでなく、対象者の発見、評価、監視、さらには HUMINT につながる活動まで、一連の情報活動のワークフローに組み込まれつつあることです。
加えて、「 Conventional weapons(通常兵器)」では、AI が兵器について単に検索や知識提供を行う「兵器について教える」段階から、実際の兵器システムのソフトウェア・エンジニアリングを AI が担う段階に近づいていると指摘しています。事例として、中国 3 件、ロシア 2 件、イエメン 1 件の計 6 件が報告されており、誘導ロケット、魚雷迎撃、ドローンスウォーム(註)、電子戦・防空制圧、軍民両用品調達、指向性エネルギー兵器調査などが含まれています。
(ドローンスウォーム:多数の無人航空機が蜂や鳥の群れ( Swarm )のように互いに連携・協調しながら一斉に行動する技術や運用形態)
AI の利用範囲は、サイバー攻撃だけではありません。情報活動や、兵器開発を含めた安全保障活動そのものへ広がり始めています。
●「誰が作ったのか」も安全保障リスクになる
9 月は、サイバー攻撃とは異なる側面から、安全保障上興味深い事案も明らかになりました。
