ScanDispatch:「米入国審査でPCデータが任意に押収可能、日本人も対象」 | ScanNetSecurity
2024.04.26(金)

ScanDispatch:「米入国審査でPCデータが任意に押収可能、日本人も対象」

 米国に出張をすると想定して欲しい。入国時にまず行うのが入国審査。そして税関国境警備局(米国国土安全保障局の一部)の局員による所持品の検査がある。この検査時に、税関国境警備局の局員は旅行者の電子機器(ラップトップ、携帯電話、カメラなど)を押収し、デー

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 米国に出張をすると想定して欲しい。入国時にまず行うのが入国審査。そして税関国境警備局(米国国土安全保障局の一部)の局員による所持品の検査がある。この検査時に、税関国境警備局の局員は旅行者の電子機器(ラップトップ、携帯電話、カメラなど)を押収し、データのコピーができる事実をどれほどの日本人が知っているだろうか。

 これは、2008年に7月に税関国境警備局が発行した「Policy Regarding Border Search of Information」つまり「方針」にのっとって行われているもの。米国内部では苦情と不満が高まっていたが、国土安全保障省の「知らしめず、依らしめよ」政策下、どのような状況でラップトップを押収するかなどのルールや、ラップトップの所持者の権利などの仔細は明らかにされていない。

 米国では、個人の財産の権利を守るための規定は厳しく、特にアメリカ合衆国憲法の修正第4条では不合理な捜索、逮捕、押収を禁止している。

 そこで2010年9月7日、アメリカ自由人権協会 (ACLU)は、Pascal Abidor、The National Press Photographers Association (全国報道写真家協会:NPPA)、The National Association of Criminal Defense Lawyers (全国刑事弁護人協会:NACDL)の3者を代表して、Abidor v. Napolitano訴訟を国土安全保障省局に対して起こした。

 Pascal Abidor氏は米国・フランスの二重国籍のイスラエル学のPh.D学生。今年の5月にカナダから電車でアメリカに帰国途上、カナダ・アメリカの国境で職務質問され所持品検査を受けた、手錠をかけられ監獄に数時間入れらたと同時に、ラップトップを押収されている。11日後にラップトップは返還されたが、ハードディスクにあった個人的なデータにアクセスをされたことが分かっている。

 NPPAは、フォトジャーナリストの協会。メンバーはカメラ、ラップトップ、メディアストレージデバイスを持参して、戦争、抗議活動、選挙などの全世界のニュースを報道しているテレビ・新聞・雑誌などのカメラマン。このラップトップ押収ポリシーは、メンバーが情報源となる人物と匿名でのコミュニケーションを不可能とすることを訴訟の理由としている。

 NACDLは、全米最大の刑事弁護人協会で、依頼者の情報の秘密を守る倫理的義務が弁護人にはあり、海外に出張する必要もあり、このポリシーは弁護士の仕事に差し支えることを理由にあげている。

 この訴訟では、国境での電子機器の捜査、押収、コピーが、修正第1条の言論の自由と、上記4条に触れるとしている。ACLUの顧問弁護士、Catherine Crumpとの電話インタビューが取れているので紹介しよう。

 現在、このラップトップ押収ポリシーについての資料は、2010年の6月10日に同じくACLUが、米国 Freedom of Information Act に則って情報の公開を要求して初めて公開されているものだけだ。それによると「2008年の10月から2010年の6月の間に、6,671人が電子機器の検査、押収を受けている」という。国籍別に見てみると、アメリカ人の2,995人、カナダ人の1,447人を筆頭に、全部で148カ国の市民が対象になっており、なんと、日本人も20人いる。1ヶ月に1人という割合だ。

 問題なのは「この電子機器の捜査・押収は、疑わしいという理由が全くないまま、つまり、理由があろうがなかろうが行うことができる」ことだ。つまり、それぞれの警備局員の独断と偏見が入る余地が多いにあるということだ。Crump弁護士も、「人種や信条を理由に捜査をする可能性がある」とヴィデオコンファレンスにて懸念している。また「電子機器の押収だけでなく、警備局員は、旅行者の知らない間に勝手にデータをコピーすることもできる」というのも問題だろう。

 この件に関しては、米国の Association of Coroprate Travel Executives(ACTE)も、2008年に上院の公聴会にて証言している。ACTEは、ラップトップなどの電子機器は出張中のビジネス旅行者にとっては自分のオフィスそのもので、そのオフィスを捜査令状なしで理由もなしで捜査され押収されるのは憲法違反であり、また、国土安全保障省は米国会計検査院から、データプロテクションがなっていないと「通知書」をもらっていることを指摘して、「企業の販売戦略、ビジネスプラン、申請中の特許、あるいは企業秘密などが入ったデータが捜査・押収されることは、企業にとってデータのリークを食い止めるポリシーを設置する必要が出てくる」としている。

 では、米国の税関でラップトップを見せろと言われた場合の旅行者の権利はどう定義されているのだろうか。筆者のこの疑問に対してCrump護士は、「それが規定がないので分からないのです。もちろん、検査を拒否して、弁護士と話をしたい、と言い張ることもできますが、逮捕される恐れがあるかもしれません。規定がないために何が起こるか誰もわからないのです」と答えた。

 そこでACLUとしては、「企業秘密などの機密情報を持って米国国境を越えることは止めたほうがいい」としか言えないそうだ。

 「日本人20人」というデータがあるため「日本人だから大丈夫」と安心しているのは勘違い。データは日本のクラウドに入れるか、あるいはラップトップをシンクライアント化してデータ自体は日本に置いたままにしておくか、それなりの対処が必要となってくるだろう。また、「電子機器」の検査と押収ということだから、プロトタイプやビジネス用の見本などもその対象となる。

 ビジネス旅行者の頭痛の種がまたひとつ増えたとしか言えない。

ACLUのリリース
http://www.aclu.org/free-speech-technology-and-liberty/abidor-v-napolitano

ACTEの公聴会での証言
http://www.acte.org/docs/Gurley_Testimony.pdf

DHSのメモ
http://www.dhs.gov/xlibrary/assets/cbp_directive_3340-049.pdf

【執筆:米国 笠原利香】
《ScanNetSecurity》

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