震災翌年からモバイル学会で災害対策に関わるものが急増

2016年3月15日(火) 12時00分
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【木暮祐一のモバイルウォッチ】第93回 東日本大震災から5年、通信ネットワークの災害対策は進んでいるのか?

東日本大震災から5年を迎えた宮城県仙台市(2016年3月11日) (C)Getty Imagesの画像
東日本大震災から5年を迎えた宮城県仙台市(2016年3月11日) (C)Getty Images
「まもるゾウ・防災」の機能選択画面(名古屋大学・廣井研究室Webサイトより)の画像
「まもるゾウ・防災」の機能選択画面(名古屋大学・廣井研究室Webサイトより)
「まもるゾウ・防災」の避難所を探す画面(名古屋大学・廣井研究室Webサイトより)の画像
「まもるゾウ・防災」の避難所を探す画面(名古屋大学・廣井研究室Webサイトより)
NTTドコモの災害対策基地局の画像
NTTドコモの災害対策基地局
災害時緊急捜索システムの事例。携帯電話を捜索すれば行方不明者がいち早く救出もできるはず。(先導的研究開発委員会「10回 クライシスに強い社会・生活空間の創成」会議資料よりの画像
災害時緊急捜索システムの事例。携帯電話を捜索すれば行方不明者がいち早く救出もできるはず。(先導的研究開発委員会「10回 クライシスに強い社会・生活空間の創成」会議資料より
木暮祐一氏。青森公立大学 准教授/博士(工学)、モバイル研究家として活躍し、モバイル学会の副会長も務める。1000台を超える携帯コレクションを保有の画像
木暮祐一氏。青森公立大学 准教授/博士(工学)、モバイル研究家として活躍し、モバイル学会の副会長も務める。1000台を超える携帯コレクションを保有
 東日本大震災から5年を迎えた。改めてこの大災害で犠牲になられた方々に哀悼の意を表するとともに、被災された多くの方々に心よりお見舞いを申し上げたい。

 被災地で津波に流された方々の捜索に当たった方から聞いた生々しい話がある。手が「あるもの」を握る形でお亡くなりになられているご遺体がとても多かったという。その「あるもの」とは……、ご想像いただけるとおり、「携帯電話」である。助けを求めるために、最後まで何度も発信を試みたのであろう。いつでも持ち歩いて利用されている携帯電話は、万が一の時には命綱にもなる。しかし、あの日は残念なことに役に立たなかったのだろう。とてもやるせない気持ちだ。

■モバイル学会シンポジウムでは災害関連テーマが激増

 3月10日、11日の2日間、茨城県つくば市の産業技術総合研究所つくばセンターにて、筆者が副会長を務めるモバイル学会主催のシンポジウム「モバイル’16」が開催され、モバイルをめぐるさまざまな研究発表が行われた。じつは東日本大震災が発災した5年前の3月10日、11日にも、同学会がシンポジウム「モバイル’11」を開催していた。その時の開催場所は筑波大学だった。ちょうど筆者がセッションの座長を務めている最中に、震度6弱の強い揺れに見舞われることになった。つくば市ではその後停電し、シンポジウムの催行も数演題を残したところで中止することになった。震災から5年を経て、また同じ日程で、しかも再びつくば市にてこのシンポジウムが催行されることとなった。

 震災翌年から、このモバイル学会において発表・公表される研究演題に、震災や災害対策に関わるものが急増している。携帯電話やスマートフォンを万が一の災害時に有効に活用したいと誰もが考えているということだ。そして社会からもその有効活用への期待は大きい。

 今回開催された「モバイル’16」で発表された話題からいくつか災害対策関連の演題をご紹介しよう。まず、名古屋大学減災連携研究センター准教授の廣井悠氏は、AXSEED、ウェルシステム、MCPC認定SMC防災ネットワーク研究会との共同プロジェクト「スマート防災プロジェクト」で開発した安否確認・避難誘導アプリ「まもるゾウ・防災」の紹介を行った。

 大都市において大災害が発生した場合、通信混雑により地震直後から周囲の被害や家族安否、移動先の情報などが受け取れない状況になり、また各地で大渋滞や混雑現象が発生し、これに伴って迅速な避難や消火・救急・救助活動が大幅に阻害されるなど、大都市特有の課題が発生する。

 このような都市災害の特殊性に注目したうえで、災害時の個人の情報収集や避難行動、滞留行動の助けとなる支援システムとして、この「まもるゾウ・防災」アプリの提供を行っている。位置情報付き安否確認機能、同伝言版機能、避難場所・避難所・災害拠点病院などの検索・誘導機能、家族の集合場所記録・共有機能、災害情報検索機能などを備える。

 また、東京工業大学大学院情報理工学研究科に在学する丹羽一輝氏は、災害時に複数のユーザーが獲得した情報をリアルタイムに収集し、それを二次利用するシステムの提案を行っている。二次利用の一例として、被害予測が可能なシステムをWebアプリケーションとして開発した。東京都世田谷区で地域住民参加型の実証実験を行っている。投稿された情報をもとに、火災延焼シミュレーションを行うなど、減災効果の検証を進めている。

 また筆者は、青森県庁企画政策部が2013年度から実施している「視覚・聴覚障害者向けiPad講習の人材育成講座」について、昨年開催されたシンポジウム「モバイル’15」で紹介を行っている。これは視覚障害者、聴覚障害者などがアクセシビリティ機能が充実しているiPad、iPhoneを利用できるよう教えられる講師を育てていこうという取り組みである。個別に視覚障害者、聴覚障害者に教えるのも良いが、それではなかなか広がりが出ない、そこで教えられる人材を増やしていこうという発想だ。講師までできないにしても、アクセシビリティ機能の使いこなしを学ぶだけでも、有用としている。

 じつは、東日本大震災時に障害者の死亡率は健常者に比べ高い割合だったことが知られている。「地震があったことはわかったが、それに伴って職場の健常者がみんな帰ってしまった。耳が聞こえないので、周囲の人が何をしているのかわからず、仕方ないので戸締まりして帰った」「避難所に入っても、音声による連絡では状況がわからず、食事をもらえなかった」「そもそも防災無線は聞こえない」といった声が多数聞かれ、こうした状況を打開するためには情報に主体的にアクセスできるタブレット等を障害者にも積極的に使ってもらおうという自治体関係者の願いから、こうした事業につながっている。

 このほかにもモバイルを用いた被災地での支援の成果や災害対策システムの提言など、学会では毎年多数の実践的取り組みや開発事例などが発表されており、その数も年々増えてきている。

 このように携帯電話やスマートフォンを災害対策等に活用しようというこうしたアイデアは尽きないのだが、どれほどコンテンツ企業や研究者、さらにはユーザーが工夫をこらしたところで、いざというときに通信インフラが正常に利用できなければ災害対策向けサービスは十分な力を発揮できない。ここは通信事業者の努力に委ねたいところだ。

■通信事業者の対策と実用可能なアイデア

 震災直後、当然ながら筆者のポケットにあった携帯電話やスマートフォンは使い物にならなかった。音声通話はもちろん、Eメールでさえ送受信できない状況に陥っていた。一方で、TwitterやFacebookは、リアルタイムとまではいかなかったが、なんとか通信を行うことができ、これらを使ってようやく家族の安否を確認することができた。大災害が発生すると一斉に通信が行われるために通信がつながりにくい「輻輳(ふくそう)」という状況に陥る。通信事業者が通信規制も行うのでますますつながりにくい状況となってしまう。音声通話ができなくなるのはこれが要因である。

 さらに東日本大震災の教訓としては、長時間の停電によって基地局への電力供給ができなくなり、震災直後は通信できた基地局も、翌日以降は備えられている蓄電池の電力も尽きてしまって、各地で携帯電話の電波が途絶え「圏外」になってしまうという状況に陥った。津波被害を受けたエリアでは基地局そのものが流出してしまったところも少なくなかった。

 各通信事業者とも、震災直後はアンテナや通信設備などを装備した基地局としての機能を備えた「移動基地局車」を被災地に派遣し、通信エリアの補完を行った。NTTドコモの場合は自衛隊と連携し、直ちに被災エリアの通信確保に動ける体制を持っていた。一方、KDDIやソフトバンクは東京から東北の被災地まで陸上を自走し支援に向かっていた。その涙ぐましい努力は関係者からたびたび聞かされた話だ。

 こうした基地局そのものの被害に対する対策として、通常の基地局とは別に半径約7km、360度のエリアをカバーする災害時専用の基地局である「大ゾーン基地局」の整備を通信事業者は進めている。NTTドコモは2011年度以降全国に106か所の大ゾーン基地局を設置しており、さらに人口密集地の更なる通信容量確保を目的として2016年度末までに全てLTEに対応させるという。大ゾーン基地局のLTE対応により通信容量は約3倍に拡大できるという。大ゾーン基地局は停電対策も通常の基地局以上の配慮が行われており、自家発電機や発電機を回すための重油タンクなども備える。NTTドコモに続き、KDDIも大ゾーン基地局の整備を2013年から始めている。

 またNTTドコモは大ゾーン基地局の他に「中ゾーン基地局」の整備も進めている、これは通常の基地局の基盤を強化した基地局で、平時は通常の基地局として運用し、災害時に周辺の基地局がサービス中断に陥った場合、中ゾーン基地局のアンテナ角度を変更することでエリアの広さを拡大できるものである。多様な自然災害への備えとして、大ゾーン基地局ではカバーしきれない沿岸部や山間部などの通信確保を目的に、NTTドコモは2017年度末までに全国で1,200局以上の中ゾーン基地局を整備するとしている。

 冒頭、犠牲になられた方の多くが最後まで携帯電話を握りしめていたことに触れた。緊急地震速報に代表されるように、携帯電話(スマートフォンを含む)には緊急時における情報を受け取る機能やサービスは充実してきた。今後期待したいことは、逆に端末側から情報を発信する機能の方だろう。緊急時に助けを求められるよう位置情報付きの緊急信号を発する機能などが考えられる。

 またモバイルネットワークも輻輳が想定され、緊急時に本当に緊急の通報が必要とする人たちが信号を発信できる手段の考案も求められる。せっかく携帯電話やスマートフォンには、位置情報を加えた情報を発信する機能が備えられている。これを緊急時に使わない手はない。

 2013年から、サイバーフィジカルシステム研究所の曽根高則義氏は、バルーンを使って簡易基地局を上空に飛ばし助けを求める被災者等を捜索できる「初動緊急期対応ソリューション」というアイデアを考案し、実用化に向けアクションを起こしている。技術的な側面もさることながら、こうしたシステムの実現にはさまざまな法律も壁になり一筋縄ではいかないことが容易に想像できる。とはいえ緊急事態は待ってはくれない。ここは緊急時に備える制度整備が迅速に進んで行くことを期待したいものだ。
《木暮祐一@RBB TODAY》

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