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[特別連載] スティーブン・ポール・ジョブズの人生と時代 第1部 第5回

スティーブン・ポール・ジョブズの人生と時代 第1部 第5回
?小学校の暴れん坊からiMacによる復活へ

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スティーブン・ポール・ジョブズの人生と時代 第1部 第5回
~小学校の暴れん坊からiMacによる復活へ

By Rik Myslewski in San Francisco
Posted in PCs & Chips, 6th October 2011 01:57 GMT

ジョブズのNeXTステップ

1985年9月後半のNewsweekのインタビューで、ジョブズはアップル後の計画について思い悩んでいた:「個人的には、物を作りたいんだ。僕は30で、業界の専門家になる準備はできていない。」

「物を作りたい」という願望から、ジョブズは以前から誘いをかけていたアップルの上級エンジニアを集め、NeXTとして知られることになる、次の取り組みの中核として雇い入れた。

アップルの経営陣は、控え目な表現をすれば、これを喜ばず、ジョブズが上級スタッフを引き抜いているばかりか、アップルに所有権のあるテクノロジや機密情報を利用しようとしている、と彼らが主張するところの「非道な陰謀」に関し、ジョブズに対する訴訟を起こした。

この訴訟は結局取り下げられたものの、ジョブズはその前にマスコミで反撃を行った。同じNewsweekのインタビューで、彼はこう言っている:「我々が行っていることを、アップル側が非常に素晴らしいアイディアだと考えているからといって、彼らが我々と張り合えない、なんてことは無いはずだ。4,300名以上のスタッフを擁する20億ドル規模の企業が、ジーンズをはいた6人に太刀打ちできないとは考えがたい。」

ジョブズはすぐに、思いがけない幸運に恵まれる。億万長者の企業家で、後の大統領候補H.ロス「巨大な吸引音」ペローが、BusinessWeek1988年10月号のカバーストーリーが言うところのNeXTの「チアリーダー代表」となり、また投資を行ったのだ。

Steve Jobs and the NeXTComputer

セールスマン・スティーブと初代NeXT Computer ジョブズの最初の「Cube



NeXTが製作したワークステーションのラインは、デスク上に強力な計算能力を必要とする、科学や学術分野のユーザーに照準を定めていた。それは議論の余地無くエレガントだったが、あまり売れなかった。しかし、これらのワークステーションがサポートするオペレーティング・システムの一つNext System(NeXTStepへと姿を変えた)は、1996年後半、ジョブズのアップル帰還へのカギとなった。

傍注として:NeXTStepの書き方は、少なくとも5種類ある。4種は公式な用法で、どのバージョンに言及しているかにより異なる。すなわちNeXTStep、NeXTStep、NeXTSTEP、NEXTSTEPの4種で、5番目はNeXTが認めてはいたが、使用しなかった書き方のNextStepだ。混乱を避けるため、我々は一貫してNeXTStepという表記を用いることにする。同じことが、関連するAPI定義OpenStep/OPENSTEP、別名NEXTSTEP 4.0にも当てはまる。

NeXT System interface

NeXT System 後にMac OS Xに姿を変えるOS(クリックすると拡大)




最初のNeXT Computerは、アップルのMacintoshに差をつけようとするジョブズの試みのように思われる。それはすべて25MHで動作するMotorola 68030プロセッサ、68882 FPUDSP56001デジタルシグナルプロセッサを装備していた。NeXT Computerが1988年10月12日、プロトタイプの形で初公開された時、当時のトップエンドのMacはIIfxで、16MHzの68030および68882を搭載し、DSPは搭載していなかった。

そのほかNeXT ComputerがMacより優れていた点には、Display PostScriptおよびビルトインのイーサネットがある。NeXTのフルシステムには、17インチのモノクロ1120x832ピクセルディスプレイが含まれていた。これに対して、アップルの1152x870 2ページモノクロディスプレイがリリースされたのは、1989年3月のことだ。NeXTは400dpiのレーザープリンターも提供した。コンピュータ自身がDisplay PostScriptを含んでいたため、たった2,000ドルで、これはアップルの300dpiのLaserWriter IINTXが、ビルトインのPostScriptインタープリターを搭載しているため、表示価格が6,999ドルにつり上がっているのに比べて格安と言えた。

ジョブズは典型的な「何が最適か私には分かっている」というタッチも付け加えた。ハードドライブとフロッピードライブ、あるいはハードドライブもしくはフロッピードライブではなく、NeXT Computerには256MBの光磁気ドライブを搭載していた。当時は比較的珍しいものだったが、最初のNeXTのパンフレットは「90年代には標準的なテクノロジーになるに違いない」かのように説明している。

しかし、NeXT Computer内にはハードドライブ用のベイがあり、ユーザーはインストールすることを選ばねばならない。パンフレットは以下のように指摘している:「NeXTシステムは、1ギガバイト以上にも迫る膨大な容量の記憶装置にアクセスできるよう構成することができます。」

NeXT Computerは立方体の黒いボックスで、そのため、しばしばNeXT Cubeと呼ばれる。この名は同社の次の製品に公式に採用された。1990年代の40MHzの68040を搭載したNeXTcubeがそれで、カラー表示可能なNeXTdimensionと共に登場した。最終的なNeXTラインNeXTstationは、cubeをより標準的な「ピザボックス」の形につぶしたもので、フロッピードライブが追加された。

しかしNeXTの格好いいハードウェア製品は、今なお使用されているマシンもあるものの、いずれもあまり売れなかった。公式な総売上高は入手できないが、最初のNeXT Computerがデビューしてから、1993年にブラックビューティが終焉するまで、一般に50,000台程度が販売されたものと考えられている。

NeXT System's Interface Builder

NeXTのInterface Builder 後にMac OS XのXcodeに至る(クリックすると拡大)




どうも作り話らしいのだが、ジョブズの気難しさに関する(そして純真さをも示す)、NeXTボックスの販売にまつわる逸話がある。Alan Deutschmanによる「スティーブ・ジョブズの再臨」によれば、ジョブズは大口注文を取り付けることを期待して、ディズニーの重役たちに、彼のワークステーションをモノクロ版とカラー版の2種類で見せたという。

その中にディズニーの長編映画部門の長であるジェフリー・カッツェンバーグがいた。カラー版のNeXTボックスは、ごく普通の人々に映像製作の力を与えるだろうとジョブズが述べると、カッツェンバーグはそれをさえぎった。このなりふり構わぬ重役は、モノクロユニットには好意を示したが、カラー版に対しては意見が違った。

Deutschmanによれば、「『これは芸術だ。』とジェフリーは言った。」「『私がアニメーションを握っているんだ。誰にも渡さない。』 彼の声は荒々しく、威嚇的かつ高圧的だった。『誰かが私の娘とデートしようとしているようなものだ。私はショットガンを持っている。誰かがそう来るなら、そいつのタマを吹っ飛ばす』」

ジョブズの現実歪曲空間は破られた。

NeXTハードウェアにはファンがいたが、セールスはふるわなかった。しかし、NeXTのUnixベースのオペレーティングシステムや、OpenStepとして知られることになるライブラリ、サービス、そしてAPIは、多くのプログラマーに熱烈なファンを獲得した。

たとえばティム・バーナーズ-リーは、NeXT上で最初のブラウザWorldWideWebを書いた。「これには、素晴らしいツールが利用できるという利点があった」と彼は書いている。「それは概して素晴らしいコンピューティング環境だった。実際、他のプラットフォームなら1年近くかかるようなことを、2、3カ月で終えることができた。何故ならNeXTでは、自分ですべきことの多くが、既に成されていたからだ。」

NeXT Systemのアプリケーション開発能力は、やがてスティーブ・ジョブズの人生を変えることになる。しかしそれは、NeXTのハードウェアビジネスが崩壊した後のことだった。(原文

© The Register.


(翻訳:中野恵美子
略歴:翻訳者・ライター
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