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アメリカでデモが広がっている。先月ニューヨークで始まったこの騒ぎは、拡大の一途をたどっており、700人もの参加者が警察に逮捕される事態となった。それだけでなく、シカゴやロスアンジェルス、国境を越えてカナダのトロントにでまで飛び火するありさまである。ジャスミン革命やロンドン暴動の時のように、ネットを通じて拡散、拡大し続けている。
彼らの目的は、ひとことで言うと格差是正である。「国民の99%を占める我々は家を追い出され、住む場所と食べ物を選ばねばならず(金がないからどっちかしか手に入らない)、治療も受けられず、環境汚染に悩まされ、安い賃金で長時間働き、その間我々以外の1%の人々がすべてを手に入れる。働き続けやがてなにもかもなくして死んでいく、それでいいのか?」おおまかこういうことを主張している。彼らは、「我々は99%である。ウォール・ストリートを占拠しよう」と言い、行進し、占拠している。こうした主張は端的に下記のサイトに記載されている。
We Are the 99 Percent
http://wearethe99percent.tumblr.com/
このサイトには、無数の人々の叫びが集約されている。それぞれ自分の主張を紙に書いて写真を撮ってアップしているのだ(写真)。また各地に「Occupy ***"(***は都市名)」のサイト、facebook、twitterなどが立ち上がり、youtubeには関連動画が多数投稿されている。そこには窮乏にあえぐ人々の生々しい訴えがある。
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Occupy WallStreet
http://occupywallst.org/
Occupuy Chicago
http://occupychi.org/
Occupuy LosAngels
http://occupylosangeles.org/
Occupy Seattle
http://www.occupyseattle.org/
Occupy Toronto(facebook)
https://www.facebook.com/OccupyToronto
世界の Occupy の状況
http://www.occupytogether.org/events/international/
他の都市にも同様のサイトが立ち上がっており、「occupy ***(***は都市名)」で検索すると発見できる。もちろん東京のサイトもある。まだ写真もなく、これからという感じであるが。日本への影響については後述する。
Occupy Tokyo(facebook)
http://www.facebook.com/OccupyTokyo
だが、政権を転覆させるには、99%もいらない。かつてアインシュタインは反戦運動についてこう言った。「2%の国民が反対すれば、アメリカ国内の犯罪者収容人数を超えるので戦争を継続することはできない」99%もいらない。2%でじゅうぶんだ。だが、仮に現政権を駆逐したとして、その後はどうするのだろう?
●ロンドン暴動との違い
今回の騒ぎが、ロンドン暴動と違うのは参加者は一般市民であり、自らの主張をきちんと示している点だ。ロンドン暴動では、無目的な破壊、略奪が行われていた。そのため暴徒に対する否定的な意見が多かった。今回は、そのような破壊活動は行われていない。今回の運動については、まだ広がりだしたばかりなので、なんとも言えないが、おそらく肯定的な意見も多くなるだろう。なにしろ彼らは、どこにでもいる、しいたげられた市民なのだ。自らの窮状を自らの写真をさらして訴えているだけだ。
ウォール街の周辺を占拠(というかキャンプ)している人々には、市民からの差し入れが集まり、かつての「ウッドストックの伝説」を彷彿とさせる状態になっているようだ。ロンドン暴動が店舗を破壊し、市民を恐怖に陥れたのとは対照的である。
そもそもこれは暴動ではない。デモや座り込みの延長線上にある行動であり、破壊や略奪活動がメインだったロンドン暴動とは全く異なる。そして参加者が一般市民であるからこそ、いちはやくネット上で情報共有が進み、その主張もわかりやすく伝わった。
この行動には、特定の主宰者、リーダはいない。しかし無秩序な活動ではない。自然と組織だった行動をとっている。これもまた一般市民に受け入れられる重要なポイントだ。
●出口の無い革命
今回の騒動は、どちらかというとロンドン暴動よりはジャスミン革命に近い。良識ある一般市民が、社会の不公正をただすために立ち上がった活動だ。もちろん、その背景には、そうせざるを得ない状況もある。不景気によって、前述のように一般市民の生活はどうしようもないところまで追い詰められている。ここで行動しなければ、死を待つだけだ、という危機感がある。
ただし、ジャスミン革命と決定的に違うのは、すでに民主化されている国で起きているということである。我々の社会は、民主主義の次の社会構造についてのパラダイムを持っていない。この次に何をどうすればよいのか、誰もわからないのだ。
●今後の見通し
だが、そんなことを考えている間にも参加者はさらに増え、世界各国に飛び火する可能性が高い。いまや不況と社会不安、格差拡大は世界共通のテーマである。なにかを変えなければ生きていけない、と考えている人は少なくない。本当に99%の人が多かれ少なかれそう思っているのかもしれない。
幸か不幸か、インターネットを通じてこうした運動の相互連携は容易になっている。何度かコラムに書かせていただいたが、facebook、twitter、YouTubeそして秘密連絡のためのメッセージングサービスは、体制側の要請を受けてサービスを中断することがない。各地の情報を交換し、参加者を募り、より大きな運動へと広がる可能性も高い。言ってみれば世界同時発生の草の根運動だ。
というと明るい話のように聞こえるが、決してそんなつもりはない。この運動には中心がない。勝手に拡散してゆく。すでに格差是正だけでなく、環境問題などを叫ぶ人々も現れている。便乗だ。一度始まった運動は、雪だるま式にさまざまな主張と人々を飲み込んで、拡大し続ける。そしてどこかで止まる。
参加者が一定数に達すると社会機能が麻痺して止まらざるを得ない。そこに至れば止まらざるを得ない。まっとうな社会の一員で、多数派である彼らが主体となって活動している以上、社会そのものが機能不全に陥ることは、彼ら自身の生活を破壊することにつながる。
その時、社会は改善される方向に向かって変化するのか、それともただ大規模に荒廃してゆくだけなのか、それは誰にもわからない。彼らの主張と活動内容は常に流動的であり、事前に最終形を予想することはできない。
●日本への影響、10月15日に何が起きるか
この活動は日本にも飛び火するのだろうか? おそらくそれはないだろう。日本人は、個人が特定されるような社会活動を好まない。それよりも大きい理由は、まだ切羽詰まっているという実感がないのだ。ほとんどの人は、まだなんとかなると思っている。実のところ日本の状況は、かなり悪いと思うのだが、まだその自覚がない。だからまだ大規模な社会活動にはならないだろう。
しかし、一年後あるいは二年後には違うかもしれない。そして、日本人には「朱に交われば赤くなる」という特質がある。経済成長にのめり込めば世界トップの経済大国になると同時に、その弊害として公害でも世界一になった。ひとたび学生運動が広まれば、国際的に活動する力を持つ、悪名高いテロリスト集団を輩出した。こうした活動が日本に根付けば、あっという間に世界有数の先鋭的な国になる可能性もある。果たしてその時、日本の政治はどうなっているのか。誰にもわからない。
ただひとつわかるのは、我々はすでに誰も予想しなかった未来に生きており、この先起こることには過去の経験は役に立たないということだ。過去の経験や実績にすがるしかない人間にはつらい時代になる。残念なことに多くの日本人は、まだ昔の常識が通用すると信じているようだが。
全世界の「Occupy」を標榜する人々は、10月15日にいっせいに行動を開始すると宣言している。果たして日本では、その日なにかが起こるだろうか。
(一田和樹)
筆者略歴:作家、カナダ在住