ソーシャル監視ネットの誕生、ネットは千の目を持つ | ScanNetSecurity
2024.03.29(金)

ソーシャル監視ネットの誕生、ネットは千の目を持つ

6月15日、スタンレーカップというホッケー大会の優勝戦がバンクーバーで行われた。ホッケーにもカナダにもたいして関心のない日本のみなさんは、関係のない話と思うかもしれない。

特集 コラム
riot26月15日、スタンレーカップというホッケー大会の優勝戦がバンクーバーで行われた。ホッケーにもカナダにもたいして関心のない日本のみなさんは、関係のない話と思うかもしれない。

決勝戦でバンクーバーカナックスが敗北したことで、パブリックビューイングの会場周辺で暴動が発生した。商店が破壊され、自動車はひっくり返され暴徒によって火がつけられた。この事件は「Stanley Cup riots(スタンレーカップの暴動)」として、CNN他多数の各国メディアが報じている。

Google「Stanley Cup riots」画像検索結果

たとえ大きい暴動だったとしても、日本のみなさんにとっては、たいして関心のない話に違いない。世界のどこかで大きなスポーツの試合があれば似たようなことは起こりうる。

問題は事件の後に起きたことだ。

バンクーバー市民は基本的にいわゆる良識人が圧倒的多数である。会場に集まった多くの人々は携帯電話を持っており、それにはカメラがついていた。そしてほとんどの人は犯行に荷担するどころか、やめさせたいと思っていたに違いない。だから、圧倒的多数の良識あるバンクーバー市民は、蛮行に走る犯人たちの写真を撮影した。

そしてその写真はやがて、facebookなどを通して、犯人特定のために集積されはじめた。自然発生的に。もちろん警察から要請があったわけではない。そんなことを警察が要請したら重大なプライバシー侵害、人権侵害である。良識あるバンクーバー市民は、あくまでも自発的に犯人特定のための情報収集と分析をソーシャルネットを使って開始したのである。

Vancouver Riot Pics: Post Your Photos (写真下)
https://www.facebook.com/pages/Vancouver-Riot-Pics-Post-Your-Photos/121837081234162
Vancouver 2011 Riot Criminal List (写真上)
http://vancityriotcriminals.tumblr.com/
Identify the rioters
http://www.identifyrioters.com/

riot暴動翌日の昼現在で、「Vancouver Riot Pics: Post Your Photos」には、すでに千枚以上の写真が集まり、5万人以上が「いいね」を押していった。

翌日のテレビニュースでは、さっそくこれらの活動と暴徒の写真が紹介された。続々と集まる犯行の写真と動画。警察も自発的に犯行の写真や動画をメールで送るようテレビで告知を始めた。

世界中に携帯電話が普及し、いつでも誰でも手軽に写真を撮り、facebookにアップしたり、メールしたりすることができる。言ってみれば、管理者のいない監視カメラネットワークだ。なにかをきっかけとして、監視ネットは動きだし、無数の目を使って特定の人々を狩り出す。

さらにfacebookも貴重な情報源となる。そこには写真や本人のプロフィールがある。場合によってはツイッターと連動し、どこでなにをしているかまでわかる仕掛けになっている。

かくしてソーシャルネットによる自発的な監視ネットワークは、きわめて効率的で暴力的な機能を顕現させた。

あまり否定的な表現を使うべきではなかったかもしれない。犯罪者を特定するという点では、とても重要な役に立つことには違いない。そしてこうした監視ネットがあることで犯罪の抑止になる可能性もある。

だが、その一方で必要以上の監視が行われる可能性もある。たまたま現場に居合わせただけでも写真に撮られて、犯人と名指しされれば疑いが晴れた後もいやな思いをすることになるだろう。多くの人は犯罪者を名指しする記事は覚えても無罪だったという記事は記憶に残らない、というか記事になりにくい。

悪用される危険もある。誰かが特定の人物の写真や動画に賞金をかけて募集し、それに多数の人間が応募する可能性は否定できない。ストーカーなどというまだるっこしいやり方は不要だ。ネットで金を出して公募すれば、相手の隣近所、同級生、同僚で金のために盗撮してくれる。

加えて、日本においては、より陰湿な使われ方をしそうで怖い。日本人の恥や罪の意識は絶対的な尺度に対してではなく「みんなと同じかどうか、みんなに受け入れらるかどうか」によって成立している。だから簡単に民主主義っぽいものを導入できたし、拝金主義にも違和感なく親しむことができた。そんな、背骨のない、よるべなき価値観を持つ人々が、この監視ネットワークをどのように使うかと考えると寒気がする。

意見の異なる相手を中傷するために使われる危険性が高いだろうから。

最後に、もっとも多くのバンクーバー市民が事件後参加したソーシャルネットを紹介しよう。

Post Riot Clean-up - Let's help Vancouver
http://www.facebook.com/theREALvancouver

暴徒に汚された街をみんなで掃除しようというボランティアの呼びかけだ。すでに2万人近い人々が参加を表明している。

(一田和樹)

筆者略歴:作家、カナダ在住

一田和樹著/原書房刊「檻の中の少女」
http://www.amazon.co.jp/gp/product/456204697X/
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