「レピュテーション攻撃の罠」前編:工藤伸治のセキュリティ事件簿 シーズン 8【Scan PREMIUM 先行配信】 | ScanNetSecurity
2020.01.27(月)

「レピュテーション攻撃の罠」前編:工藤伸治のセキュリティ事件簿 シーズン 8【Scan PREMIUM 先行配信】

オレはいささか驚いた。どうせちんけな個人情報流出だろうと高をくくっていたが全然違う話だった。システム担当の橘の説明によると、先月からSNSでバズーカノベルティに対する誹謗中傷が急増した。

特集 フィクション
「工藤ちゃん! ご指名ですよ」

 いまだにバブリーな調子の良さが売り物の沢田が電話してきたのは肌寒くなってきた頃だった。

「お前が指名してるだけじゃないのか?」

 事務所兼自宅ですることもなくネットサーフィンしていたオレは、仕事の連絡にほくそ笑みながらも平静を装う。

「違いますよお。先方というか先方が依頼しているパイラセキュリティって会社がこの案件は工藤さんが適任でしょうって推薦したんです」

「パイラセキュリティは中堅の実力派だ。外に出せないような話か? 社内犯行だから隠蔽したいとか?」

 オレはフリーランスのサイバーセキュリティコンサルタントだ。まっとうな案件はきちんとした会社に頼む。オレのところに来るのは外には言えない事情があるものばかり。たとえば内部犯行が疑われていて、できるだけ表沙汰にしたくないようなヤツだ。

「そうじゃないんです。世論操作だからですよ」

「なに言ってんの?」

 広告代理店の営業マンの沢田はサイバーセキュリティのことはほとんどわからない。相づちのうまさと調子の良さで、どんなジャンルの案件もクライアントが一言口に出せばかっさらってくるすご腕だ。今回も内容をほとんど理解しないまま、適当なことを言って引っ張ってきたに違いない。

 オレは沢田と連れだって、仕事を依頼したいというバズーカノベルティという会社に向かった。沢田の話によれば声優関連のグッズに特化したネットショップとリアル店舗を展開している会社だそうだ。最近ではオリジナルのラジオドラマなども作成しているらしい。おっさんふたりでのこのこ出かけて行くようなとこじゃない気がしてくる。

 オレの名前は工藤伸治(くどう しんじ)。しがないフリーのサイバーセキュリティコンサルタントだ。といっても高度な技術や最新の知識を元にクライアントを指導したり、脆弱性を指摘するわけじゃない。そういう仕事もないわけじゃないが、稀だ。

 ほとんどは企業が表に出したくない仕事。隠蔽しておきたいが犯人は突き止めたい社内犯行。外部からの攻撃だが表沙汰にしたくない事情のある時に呼ばれるのがオレだ。秘密裏に解決して口は固く他言しない。

 今回もそういう話だろうと思っていたが、のっけから予想は裏切られた。
《一田 和樹》

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