オレは、いささかあきれていた。そろいものそろってこんな簡単に騙されるとは驚きだ。確かに仕掛けはうまくできていたような気がするが、誰かひとりちょっと確認すればわかったことだ。
山内の剣幕に片山は不安そうな表情になった。社長の前で工藤や自分が一方的に罵られたら、社長にどんな目に遭わされるか考えただけでも恐ろしい。 「私を犯人に仕立て上げる自信があるなら、社長呼んでもいいんじゃない。私なら、しないけどね」 山内が皮肉混じりに言った。
大手ネット広告代理店サイバーフジシン社 情報システム部の片山は、思考実験を繰り返していた。何度かの思考実験の結果、もっとも妥当な推理は、社長室の外にいる誰かが山内のトークンを盗み見して、金を奪ったというものだ。
「ほんとか? もう一度やってみろ。どうせダメならロックされてもいいだろ」 工藤にうながされて、山内はしぶしぶID、パスワード、そしてワンタイムパスワードを入力した。エラーが出た。工藤は、じっとその作業を観察する。
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